幻の動物ユキヒョウを救った“家畜保険” | トピックス

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2020年7月1日 ナショナル ジオグラフィック 







ユキヒョウは何千年にもわたって人を寄せつけないようなアジア中央部の過酷な土地に生きてきた。そのため目撃例が少なく幻の存在とされていたが、近年になって、その姿が少しずつ見え始めている。住民を巻き込んだ保護活動が、効果を上げつつあるようだ。  インド北部のスピティ谷にあるキバー村では、家畜を襲うユキヒョウは村の人たちから目の敵にされていた。そんなユキヒョウが、どのようにして大切な存在になったのか。1996年、チャル・ミシュラという名のデリー出身の25歳の学生がキバー村に初めてやって来たことにはじまる。



チャルがキバー村にやって来たのは、家畜がスピティ谷の野生生物に与える影響について研究したいと考えたからだ。彼は村に部屋を借り、2年間にわたって高地の牧草地を調査した。その間、村の暮らしにも溶け込んだ。  しばらくして、チャルは年長者たちに、山の牧草地の一部を野生動物のために残しておいてもらえないかと頼んだ。年長者たちはこれに同意し、その後、家畜と争わなくて済むようになったおかげで、ウシ科の動物、バーラルの数は4倍に増えた。次にチャルは、ユキヒョウを殺さずに家畜を守る方法をいくつか提案したが、これについては丁重に断られた。「誰もがチャルを尊敬していましたが、ユキヒョウは疫病神です。それを守ってやろうなんて、誰も考えていませんでした」と村民のティンリーは話す。  それでも、チャルは諦めなかった。今度は若者たちに、“家畜保険”というアイデアを提案した。「そもそも保険とは何なのか、私たちは知りませんでした」とティンリーは言う。チャルは仕組みを説明した。この保険に加入して幼いヤクに年間500円ほどの掛け金を払えば、ユキヒョウに襲われた場合に保険金を受け取れるというものだ(成長したヤクには4万円弱の値がつく)。また、不正な請求を防ぐため、飼い主には被害がユキヒョウによるものであることを、ダライ・ラマの写真に誓ってもらうことにした。「うまくいくのかと、みんな半信半疑でした」とティンリーは話す。だが、1年目の終わりに4件の請求に対して保険金が支払われた。「支払いは村人全員の前で行われました。年長者たちもそれを見て、全員が保険に加入しました」  その後、この保険制度はインドの自然保護基金(NCF)とユキヒョウ・トラストの支援を受けて、ティンリーを含む地域住民の委員会によって運営されるようになった。現在では、スピティ谷のほかの村々でも導入されている。  こうした取り組みの結果、キバー村周辺でユキヒョウの目撃例が増え、冬期に道路の通行が可能になった2015年には、ユキヒョウ見学ツアーが始まった。19年に訪れた観光客は200人を超え、村には1000万円以上の金が落ちた。 チャルは現在、ユキヒョウ・トラストを率いていて、村と深いつながりを維持している。「私がいくつかの提案をし、NCFがいくらかの資金を出したにすぎません。ユキヒョウの保護がうまくいっているのは、キバー村やスピティ谷の人たちのおかげです」※ナショナル ジオグラフィック7月号「峡谷の村で出会った「ユキヒョウ」より抜粋。