九州北部に停滞した梅雨前線が記録的な大雨をもたらした2012年7月3日。朝、自宅前の花月川が氾濫(はんらん)した。足元に水の感触があり、浸水に気付いた。弱視の夫と2人では避難ができない。119番通報して救助を求めた。
だが「犬は置いていってください」と告げられる。「うそでしょ」。盲導犬であることを必死に訴えた。「この子がいないと生活できないんです」。「一度確認させてください」と通話は途切れた。
その間も水位は上がってくる。携帯電話と財布、当時の盲導犬インディのドッグフード1食分を用意して待った。結局、消防隊員2人がやって来て、インディを連れて避難することができた。
やっとの思いで自宅裏にある日田林工高校の体育館に到着。だが、避難者で混み合う屋内に犬を連れて入るのは、はばかられた。入り口のドアにリードをかけ、全身ずぶぬれのまま、怖がって鳴くインディをなで続けた。
近くを通る避難者からは「なんでこの犬はここにおるんかい」という言葉が飛んできた。とっさのことで盲導犬であることを示す胴輪(ハーネス)を着けられず、普通のペットに見えたのかもしれなかった。夕方までは避難所にとどまったが、結局その後は夫の実家に移動した。
自宅は2017年の九州北部豪雨でも床上30センチまで浸水した。避難も考えたが、「前に『どうして犬がいるんだ』と言われたことも気になったし、トイレの世話もきちんとできない」。家族で2階に避難し、やり過ごした。
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