
同園では1989年からコアラの展示をスタートさせ、30年飼育員の飼育技術を高めてきた。約600人が駆けつけたお別れ会は牧慎一郎園長と飼育員・辻本英樹さんらの挨拶で締めくくられたが、大阪で最後の1頭であるコアラの渡英に、反対する人たちから抗議の声が1時間近く上がった。
市民の怒りには、理由がある。ここ数年相次ぐ動物の急死や事故死に対し、具体的な対策を講じない園に不満がたまるなか、住民の声を無視して今回のコアラの渡英が決定されたこと。それに輪をかけて、今月27日には生後3カ月のアシカの赤ちゃん「キュッキュ」が行方不明になったことが判明。市民の堪忍袋の緒もついに切れたのだった。
この日、園長らに抗議した女性は、「ここ数年、原因不明の突然死や急死が多い。でも園は死因も再発防止策も出さない。園では、『アークは最後まで面倒を見る』と言ってたんです。それなのに、こんな短期間で渡英が決まって…。園が信じられないから、アークを安心して送り出せない」と涙ながらに訴える。
その悔しさは、飼育員の辻本さんも同じだ。「繁殖なんて、正直どうでもいい。とにかく1日でも長く生きてくれることが願い。反対したけれど、契約は覆せない。決して『そら』(アークの子どもで、出園後に死亡)のようにしたくない。アークがイギリスでやっていけるところまで、技術の伝承を現地スタッフに伝えたい」と語る。
同園を管理する大阪市建設局は2015年、約3600万円というエサ代の高さ(園全体の3割を占める)、繁殖の難しさなどを理由に、コアラなどを「撤退種」と位置づける「コレクション計画」を策定。しかし、同園のコアラの飼育技術は非常に高く、「屋外飼育」を実現している施設は世界でも類を見ないという一面があるのも事実だ。
辻本さんは、「エサ代はかかるが、数字だけでは判断できない技術や飼育環境を生んだ。コアラの飼育と展示に関しては、天王寺動物園は世界一。だからこれだけの人が集まってくれた。宝をドブに捨てるようなもの。とても悔しい・・・」と本音を打ち明ける。