<名古屋市>猫「多頭飼育崩壊」 現場から見えた状況と課題 | トピックス

トピックス

身近で起こっている動物に関する事件や情報の発信blogです。

6/30(土) 13:00配信  毎日新聞

 

 

<名古屋市>猫「多頭飼育崩壊」 現場から見えた状況と課題

保護された猫。すっかり表情が和らいでいた=名古屋市千種区の市動物愛護センターで2018年6月19日、山口政宣撮影

 

 

 猫の飼育数が犬を上回る(ペットフード協会調べ)など、空前の猫ブームが続いている。そんな中、名古屋市北区の市営住宅で多数の猫を飼育していた女性が強制退去となり、45匹が市動物愛護センターに保護された。「多頭飼育崩壊」と呼ばれ、全国各地で問題となっている。近隣住民はもとより、猫にとっても悲惨な結末を迎えた今回の事態はどのように起きたのか。現場を歩いた。【山田一晶】

 ◇経緯

 経緯を振り返る。

 市によると、女性が妹と2人で引っ越してきたのは昨年2月。直後から異臭騒ぎが始まる。問題の3DKの部屋は16室の入る棟の1階にある。区役所などに抗議の電話が入り始めた。2階の女性は「臭い、鳴き声がだんだんひどくなっていった。直接文句を言いに行った人もいたが、全く改善されなかった」と話す。

 市営住宅はペット禁止だ。市が最初に面会して指導したのは昨年5月。ところが、女性は「何とかする」などと言ったきりだった。当時は10匹前後の猫が室内におり、まだ人が生活できる環境だったという。

 その後も住民からの抗議は続き、市は動物愛護センター職員も伴って何度も指導した。不妊手術や動物愛護管理法による市での引き取りも助言したが「殺処分の可能性がある限り、手放せない」と拒まれた。やがて電話も着信拒否されるようになり、面会できなくなる。

 ようやく連絡がついたのは、市が強制退去措置手続きを始めた11月。姉妹はその後、部屋を出て別の場所で生活し、猫に餌と水をやりに毎日訪ねていたらしい。市は今年1月に部屋の引き渡しを求めて名古屋地裁に提訴し、3月に勝訴した。6月11日を退去期限としたが、女性からの具体的な動きはなく、猫の保護も強制執行当日を予定していた。

 ところが、猫好きで知られる大阪府の松井一郎知事が河村たかし市長に猫を殺処分しないよう要請。河村市長もこれを受け入れたことが6月1日に報じられた。これを知った女性から7日、「猫を引き渡したい」と連絡があり、退去日前の8日に猫が保護された。

 ◇現状

 19日、市動物愛護センターに保護された猫たちを再び訪ねた。

 9日に報道陣に公開された際は一つの犬舎の中にいたが、この日は2カ所に分散されていた。前回は籠の中でほとんど動かず、まん丸の目で記者たちを見つめていた猫は、大きな鳴き声を上げて取っ組み合い、爪研ぎや毛繕いに余念がなかった。「猫らしい表情が戻ってきた」と面倒を見ている鳴海大助・管理指導係長は言う。

 栄養状態に問題はなく、虐待などを示すけがもない。脚がまだ黄色く汚れている猫がいるのは、あの汚い室内を歩き回っていたせいだろうか。保護された45匹のうち、1匹だけは不妊去勢手術をして女性に返した。ここで生まれた2匹は、ボランティアに飼育を委ねられた。

 一連の報道後「引き取りたい」という申し出が相次いでいるという。猫の手術をして、もう少し人になついたら、愛護センターで直接、または譲渡ボランティアを通じて、新たな飼い主を見つけて新しい生活を始めることになる。

「必ず手術を」 鳴海係長は「飼い主もここまで猫を増やそうとか、ひどい環境で育てようと思っていたわけではない。優しい気持ちで飼い始めたのに、不妊去勢手術をしなかったために、あれよあれよという間に増えてしまった。猫を飼う人、保護する人は必ず手術するようにしてほしい」と訴えた。

 ◇住宅ルポ

 すさまじいアンモニアの臭気がマスク越しに鼻から入り、悲鳴を上げた。積み上がった段ボール箱、猫の餌袋、何かが詰まったビニール袋、新聞や雑誌……。猫はこんな空間で生きていた。11日午後、市が報道陣に公開した市営住宅に入った。

 取材時間は5分。入室すると、玄関ドアがすぐに閉められた。悪臭が広がるのを防ぐ措置だ。壁紙は剥がれ、ふすまはボロボロになって倒れていた。押し入れにも何かが詰め込まれている。窓には厚いカーテンがかかり、日中も薄暗い。茶色くなった汚物で床が見えない室内は、全てがじっとりとぬれているようだった。

 保護された45匹の中に、生後半年以内の子猫はいなかった。2匹の死体もあった。「このごみの山の中に他にも死体があったりしても分からない」と立ち会った市住宅都市局職員は顔をしかめた。リフォームにかかる費用はまだ分かっていない。

 ◇課題

 全国に出張して猫の不妊去勢手術などをしている公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市)の佐上邦久理事長は「典型的な多頭飼育崩壊事案だ」と断言する。これまで、全国各地で悲惨な現場を見てきた。

 2016年に専用フォームを開設して以降、年間100件超の相談が寄せられていたが、数が多すぎること、責任の所在が明確にならないことから、昨年6月からは自治体やNPO法人経由での相談のみを受け付けている。それでもこの一年で70件に達した。

 最初の1匹のうちに不妊手術をすればいいが、5匹の子が生まれたら手術代もそれだけ増える。飼い主本人にも、複雑な事情を抱えているケースが多い。貧困や障害、高齢などだ。

 名古屋市など一部自治体では、ペットの多頭飼育を届け出制にするなどの条例作りに取り組む動きもあるが、十分とはいえない。多頭飼育崩壊の結果、一度に多数の猫を保護したボランティアが2次崩壊を起こしたこともあったという。

 佐上理事長は「獣医には動物のことしか分からない。行政も責任を持ち、飼い主の心理カウンセリングや法的支援も含め、問題解決を目指す必要がある」と話した。