2/1(木) 7:12配信 NATURAL GEOGRAPHIC

草を食むメスのサイガ。種としての将来は不透明なままだ。(PHOTOGRAPH BY IGOR SHPILENOK, WILD WONDERS OF EUROPE)
中央アジアのカザフスタンで、深刻な絶滅の危機に瀕しているウシ科の動物「サイガ」。2015年に発生した大量死の原因が、ようやく判明した。
2015年の春のこと。カザフスタンの草原には何キロにもわたり、至るところにサイガの死体が転がっていた。全世界の生息数の半分以上にあたる20万頭以上のサイガが、原因不明の病に倒れたのだ。
ヤギと同程度の大きさで、思わず笑ってしまいそうな外見をしたサイガは、ゾウの鼻を押しつぶしたような柔らかい鼻を特徴とする。その大量死したサイガの死体を科学者が詳細に調べた結果、死因はパスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)血清型Bという細菌による出血性敗血症だったことが明らかになった。この調査結果は、1月17日付の科学ジャーナル「Science Advances」に発表された。
パスツレラ菌は、サイガの大きな鼻に常に存在しているとみられ、おそらく生まれたときから存在する。しかし、例年にない高温多湿の気候が続いたことで、細菌が異常に増殖し、サイガの体が抵抗しきれなくなり、死に至ったのではないかという。
現在、およそ10万頭のサイガが生息していると考えられている。過去数十年の間に、肉や角を狙った狩猟や、人間の活動による生息地の分断で数が激減していた。フェンス、道路、線路、パイプラインの建設などによって、群れの移動が妨げられているのだ。
そもそも、サイガの鼻はなぜあれほど大きいのだろうか。2004年の研究では、吸引した空気を肺に送り込む前に、鼻の内部の大きな空洞で空気を浄化しているのではないかとの見解が示された。サイガの大群が一斉に移動すると、草原(ステップ)に砂嵐が巻き起こる。その中でより効率的に呼吸できる構造になっているのだろう。
また、コミュニケーションを取ったり、恋の相手を選ぶ際にも、鼻が役立っていることを示す証拠もある。ホエザルやコアラと同じように、オスのサイガは鼻から大きな唸り声を発して、体の大きさを誇示し、メスの気を引こうとしていると考えられている。鼻を地面に近づけて走る姿は、専門家の間でジョーク交じりに「ステップの掃除機」と呼ばれたこともある。
サイガの長期的な見通しは不透明だ。かつてはブリテン諸島から北米のユーコンまで広く分布していたが、今では中央アジアの一部にしか見られず、その生息域はなお縮小し続けている。
文=NATIONAL GEOGRAPHIC STAFF/訳=ルーバー荒井ハンナ