10/13(金) 18:40配信 NATIONAL GEOGRAPHIC

とてもショッキングな光景だ。
アフリカ南西部に位置するナミビアで、たくさんのカバが横向きや仰向けになって死んでいる。地元の人々の間でさらに動揺が広がっているのは、この大量死が非常に短い時間で起きたからだ。
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ナミビア環境・観光省で課長代理を務めるジョンソン・ンドコショ氏によると、死んだカバが初めて見つかったのは10月1日。それ以来、アンゴラとボツワナにはさまれたナミビア北東の回廊地帯に位置するブワブワータ国立公園の西部で、少なくとも100頭のカバが死んでいることがわかった。
「ここしばらくは起きていなかった現象です」とンドコショ氏は話す。今のところ、これは以前にも同じような大量死を引き起こした、ある細菌によるものではないかと考えられている。
省の担当者は、電話での取材に対して「炭疽(たんそ)菌が原因ではないかと考えていますが、まだ確認はできていません」と答える。まだ分析の最中であるとしながらも、担当者は炭疽(炭疽症)を防ぐのは難しいことを強調する。
ンドコショ氏も、「できることは多くありません」と語る。「野生生物を移動させることはできませんから」
報告によると、被害はアフリカスイギュウにも及んでいるようだ。だが、ンドコショ氏によると、カバが大量死した場所は国立公園の中でも僻地にあり、家畜が飼われている場所からは遠くはなれているため、炭疽が広まる可能性は大きくないという。
2004年には、ウガンダで200頭近くのカバが炭疽により死んだ。このときは、研究者による正式な診断が行われるまでに何カ月もかかり、少なくとも10人が死んだカバの肉を食べて死んでいる。
炭疽は、炭疽菌(学名:Bacillus anthracis)という細菌によって引き起こされる。自然環境では、水位が下がったときにこの細菌と接触することがあるとされる。炭疽菌は生物兵器として利用できる可能性があることで知られているが、自然界においては土壌の中に存在し、何十年も気づかれずに残存し続ける。
米国疾病予防管理センター(CDC)によると、炭疽菌は芽胞(がほう、菌が非常に高い耐久性を持つ状態)を形成できる。芽胞が生きた有機体に入り込むと、「活性化」して増殖し、体中に広がって極めて重篤な疾患を引き起こす。その場合、適切な治療を行わなければ死に至る。
地元紙「New Era」には、ナミビア国立公園・野生生物局で課長を務めるコルガー・シコポ氏へのインタビューが掲載されている。シコポ氏は、川の水位が下がったために炭疽菌が含まれる土壌が露出し、それが大量死につながった可能性があると話している。
政府は、地域の住民に死んだカバの肉を食べないよう呼びかけるとともに、炭疽の流行を防ぐためにカバの死骸を焼却する作業も進めている。「動物に被害が出ていることは残念ですが、住民の健康については心配していません」とンドコショ氏は話す。
ただ、カバは国際自然保護連合(IUCN)によって「危急種(vulnerable)」に指定されている。ナミビア周辺には3300頭ほどのカバが生息しているとみられる。
ブワブワータ国立公園は、アフリカ南部で最大の淡水湿地帯で、たくさんの野生動物が暮らすオカバンゴ・デルタのすぐ北に位置する(ナショナル ジオグラフィックは、オカバンゴが長期にわたって環境を維持できるように支援を行っている)。
カバの大量死に関する分析はまだ継続中だ。詳細がわかり次第、続報をお送りしたい。
文=Sarah Gibbens/訳=鈴木和博