梅雨の時期に要注意の中毒があります。それが「ナメクジ駆除剤中毒」。私たちのまわりにある物の中で、ナメクジ駆除剤は犬や猫など動物に非常に危険性の高いものの一つですが、ナメクジ駆除剤の毒性については知らない飼い主さんも多いのではないでしょうか。
特に、外に行く猫や、散歩で拾い食いをしてしまう犬では、ナメクジ駆除剤中毒へ注意が必要です。しっかり対応できるよう、ナメクジ駆除剤中毒を覚えておいてください。
ナメクジ駆除剤とは
ナメクジ駆除剤は、ナメクジがたくさん出る季節に使われる殺虫剤の一種です。ナメクジは人や動物への害のある虫ではありませんが、見た目が良くないために駆除する人もいます。また、植物の葉を食べてしまうため、ガーデニングや野菜を育てている人では大切な植物を守るためにナメクジ駆除剤を使う人もいます。
ナメクジ駆除剤に使われる殺虫成分は大きく2種類に分かれます。1つが「メタアルデヒド」、もう1つが「リン酸第二鉄」です。
メタアルデヒドを含むナメクジ駆除剤は危険
ナメクジ駆除剤の中毒成分はメタアルデヒドです。リン酸第二鉄は動物への毒性は強くありません。ナメクジ駆除剤を食べてしまった場合は、どの成分が入っているかが非常に重要になってきます。
メタアルデヒドの致死量にはさまざまな説がありますが、犬も猫も体重1㎏あたり10mg以上を食べると非常に危険だと言われています。中毒症状を起こす中毒量は、さらに低い量になります。
猫や小型犬では1gのナメクジ駆除剤が致死量に
例えば、ナメクジ駆除剤の代表的な商品である「ナメクジキラー」には6%のメタアルデヒドが含まれています。6%ということは、1gのナメクジキラーには60mgのメタアルデヒドが含まれている計算になり、この量は6㎏までの犬や猫の致死量なんです。
ネコや小型犬では、1gのナメクジキラーを食べただけで死んでしまう可能性があります。ナメクジ駆除剤の毒性の強さと危険性がわかっていただけると思います。
ナメクジ駆除剤中毒の症状
ナメクジ駆除剤中毒は、ナメクジ駆除剤を食べてから1~4時間以内に症状が出て来ると言われています。メタアルデヒドの毒性は神経毒ですので、神経に関わる症状が主な症状です。重度のナメクジ駆除剤中毒では、けいれんや呼吸停止を起こして、数時間以内に亡くなってしまうこともあります。
ナメクジ駆除剤の主な症状は以下の通りです。
- 不安
- 知覚過敏
- 震え
- よだれ
- 嘔吐
- 下痢
- 痙攣
- 呼吸微弱
ナメクジ駆除剤を食べてしまったらどうする?
もしナメクジ駆除剤を食べてしまった場合には、まずはその商品名がわかれば成分を調べてみましょう。リン酸第二鉄を主成分とするナメクジ駆除剤の場合は中毒を起こす可能性は低いです(リン酸第二鉄以外の成分による中毒や、嘔吐・下痢などは出る可能性があります)。
もしメタアルデヒドを主成分としたナメクジ駆除剤であれば、すぐに動物病院へ行く必要があります。夜であれば夜間緊急の動物病院を探していくべきです。何かあった時のために夜間に見てもらえる動物病院を把握しておくといいでしょう。
ナメクジ駆除剤を食べたかどうかわからなくても、何かを拾い食いした後や、外から帰ったときに上記のような症状を出している場合は、ナメクジ駆除剤中毒を疑ってすぐに動物病院へ連れていきましょう。
動物病院での治療
動物病院での治療は、どのくらい前に食べたのか、どれくらい食べたのかによって変わってきます。主に行う治療は以下の通りです。
催吐処置
食べて2~3時間以内であれば、催吐処置によってできるだけメタアルデヒドを吸収させないようにすることが可能です。すでに症状が出てしまっている場合には催吐処置を行うメリットは低くなってしまいます。
催吐処置に関しては犬の9割以上・猫の3割程度で成功します。犬であればかなりの割合で吐かせることができますので、ナメクジ駆除剤を食べて30分以内など、すぐに処置ができれば中毒を起こさずに済む可能性は高くなります。催吐処置には食べてからの時間が非常に重要になります。
胃洗浄
犬や猫で胃洗浄を行うことは多くはありません。理由は
- 全身麻酔を行う必要性がある
- 食べたものが特定できないことも多く、胃洗浄の必要性がはっきりしないことが多い
- すでに食べてから時間がたってしまっていることが多い
ということです。明らかに1時間以内にナメクジ駆除剤を致死量以上食べて、催吐処置がうまく行かない場合には、動物でも胃洗浄のメリットがある可能性もあります。ただし、全身麻酔が必要になるので、胃洗浄の処置自体にもリスクもあることは理解しておいてください。
活性炭の投与
メタアルデヒドを吸着して吸収を阻害する物質として、活性炭を飲ませることもあります。活性炭によってどれくらいメタアルデヒドの吸収を抑えられるのかは不明ですが、メタアルデヒドを誤食してしまってからできるだけ短時間の間に投与することで、吸収してしまうメタアルデヒドの量を減らすことができる可能性があります。
点滴
メタアルデヒドには解毒剤は存在しません。そのため、すでに体に吸収してしまっているメタアルデヒドを無毒化することはできず、体に入ったメタアルデヒドに対する治療は、点滴をしてできるだけ早くメタアルデヒドを体の外に出すことです。また、身体が酸性に傾くアシドーシスを補正することも、点滴の目的になります。
致死量を下回るかなり少量の誤食であれば皮下点滴を、致死量に近いかそれ以上であれば静脈点滴で集中治療を行うことが多いです。すでにメタアルデヒドが体の中に入ってしまっている場合は、とにかく尿中に中毒物質を出してあげることが大切になってきます。
対症療法
メタアルデヒド中毒の症状がすでに出てしまっている場合は、その症状を抑えるための対症療法が必要になることもあります。痙攣に対する抗けいれん薬や、下痢やおう吐を抑えるための下痢止め・吐き気止めなど、その症状に合わせたお薬も使っていきます。
ナメクジ駆除剤中毒の予後
- ナメクジ駆除剤中毒の予後は飲んだナメクジ駆除剤の量
- 動物の大きさ・年齢
- 催吐処置ができたか
- 治療までの時間がどれくらいかかったか
などによって変わってきます。基本的には急性期を脱して完全に回復するか、数時間~数日以内に亡くなってしまうかの明暗がはっきり分かれた結果になります。うまく数日乗り切って回復できれば予後は良いことがほとんどです。
飼い主さんが気を付けておくべきこと
ナメクジ駆除剤中毒を起こさないため、またナメクジ駆除剤中毒でペットが命を落とさないために飼い主さんが気を付けておくべきことは以下の通りです。
1.メタアルデヒド入りのナメクジ駆除剤を使わない
家の庭や玄関先にメタアルデヒド入りのナメクジ駆除剤を置いておくと、愛犬や愛猫が飲み込んでしまうリスクが高くなってしまいます。動物を飼っている場合は、動物に比較的無害なリン酸第二鉄を主成分とするナメクジ駆除剤を使いましょう。
2.散歩中に拾い食いにできるだけ気を付ける
散歩コースにはナメクジ駆除剤だけでなく、有害な殺虫剤や農薬、悪意による毒物が落ちている可能性があります。散歩中はできるだけ変なものを食べないように注意して下さい。
3.食べた可能性がある場合はすぐに動物病院へ
ナメクジ駆除剤は、玉ねぎ中毒やチョコレート中毒と違い、非常に少量でも危険な中毒を起こす可能性のある中毒物質です。少量でも食べた可能性がある場合は、できるだけすぐに動物病院へ行き、中毒症状が出ないように、中毒が出たとしても軽く済むようにできることをしてもらいましょう。食べてからの時間が短ければ短いほど、治療の選択肢は増えますし、リスクを減らすことができますので、早くつれていくことが大切です。
まとめ
ナメクジ駆除剤はあまり知られていませんが、犬や猫に重篤な中毒を起こす非常に危険な物質です。まずは食べさせないようにすることが大切ですが、食べてしまった場合にはすぐに動物病院へ連れていくことが重要です。
「メタアルデヒド入りのナメクジ駆除剤は危険で、食べてしまったらすぐに動物病院で治療を受ける必要がある」ということを頭に入れておいてくださいね。