8月4日(木)7時31分配信
139匹の遺伝子を解析、
旧来のブリーディングに警鐘
力強さや頑強さを象徴する
イヌだったブルドッグ。だが、
100年以上にわたる選択的交配が、
このイヌをひ弱にしてしまった。

イングリッシュ・ブルドッグは世界的にきわめて
人気が高い。だが、つぶれた顔、ずんぐりした体、
だぶついた皮膚など人間を虜にする特徴が、
さまざまな健康問題をもたらしている。
(Photo by Nick Norman, National Geographic)

【写真】奇妙な進化を遂げたブルドッグの頭骨
実は今、ブルドッグたちは呼吸や骨格、
皮膚の障害をかかえている。しかも、
多くの個体が自然に交尾したり出産したり
できない。幼いうちに呼吸障害を起こすと、
5歳以上まで生きられない可能性が高い。
7月末、ブルドッグの遺伝子を初めて
完全に解析した研究の結果が、オンライン
ジャーナル「Canine Genetics and
Epidemiology(イヌの遺伝と疫学)」に
発表された。この研究により、
ブルドッグの遺伝的多様性がきわめて
低いことが明らかになった。
遺伝子が欠けているとなれば、
ブリーダーの人々が願うように、
自然に元の健康的な形質を取り戻すと
いうのはかなりの難題だと、研究チームの
リーダーである米カリフォルニア大学
デービス校の獣医学研究者
ニールス・ペダーセン氏は語る。
米アメリカンケネルクラブによると、
ブルドッグ、いわゆるイングリッシュ・
ブルドッグは現在、米国では4番目に
人気の高い犬種だという。
139匹がほぼ同じゲノム
研究者らは、合計139匹のブルドッグの
DNAを採取、解析した。北米、ヨーロッパ、
アルゼンチンで暮らす健康な個体の
グループと、大学の動物病院に入院中の
さまざまな疾患をもつグループだ。
結果は衝撃的だった。健康で地域も
ばらばらな個体群なら、それぞれの
ゲノム構造は大きな違いがあるものと
考えられていたが、ブルドッグの場合、
どの個体もゲノムの大半の領域が同じ
だった。
おまけに、ゲノムのなかでもイヌの
免疫系を制御する領域に、やっかいな
多様性の欠如が見つかった。研究者は、
健康なイヌと疾患をもつイヌとで
違いは見られなかったとしている。
遺伝的多様性が低い理由の一つは、
現代のブルドッグがわずか68匹の
集団から始まっていると見られることだ。
こうした小さな遺伝子プール(多様性)
からスタートして、つぶれた顔、
ずんぐりした体、だぶついた皮膚に
なるよう選択的に交配が重ねられた
ブルドッグは、さらに多様性を
失ってしまった。
愛嬌あるつぶれ顔と引き換えに
ブルドッグにとって不幸なことに、
その魅力となっているさまざまな
身体的特徴も、疾患の原因だという。
たとえば、その愛嬌のあるつぶれた顔。
つぶれた顔になるよう交配すると、
極端な短頭になり、頭蓋骨が短くなる。
これが今、ブルドッグの死の最大の原因に
なっている。さまざまな呼吸器疾患や
発熱が引き起こされるからだ。
この不格好な頭は、繁殖にも影響する。
ブルドッグの子犬は、母犬の産道を
通れないので、帝王切開で生まれるしか
ない。ペダーセン氏は、ブルドッグの
出産の80パーセントが人工受精と
帝王切開だと見ている。
「100~150年前がどうだったか
考えてください」と、今回の研究には
参加していない米コーネル大学獣医学部の
遺伝学者アダム・ボイコ氏は言う。
19世紀半ばの写真を見ると、
ブルドッグは長い顔をし、尾はまっすぐで、
皮膚のだぶつきもほとんどない。
「ブルドッグについて何度も意図的な
選択をしてきたんですから、最初から、
遺伝的多様性の低下という問題が
あったんです。さらに交配を重ねると、
疾患が急増するかもしれません」
社会とブリーダーの協力が必要
ブルドッグの子犬の人気が高まって
いるため、なかには3万ドル(約300万円)で
取引される子犬もいる。より「愛嬌のある」
ブルドッグを求める市場に、ブリーダーが
応えていることはあきらかだ。
だが、社会もブリーダーも協力して、
ブルドッグの救済に取り組む必要がある。
アメリカンケネルクラブをはじめと
する登録機関は、審査基準をゆるめる
ことで、これに一役買うことができる。
基準をゆるめれば、近縁の血統から
新しい形質を得ることが可能になるだろう。
「ブリーダーは、自分たちには問題が
あると気づくべきです」と、ペダーセン氏は
言う。