【日本の議論】
自治体が2013年度に殺処分した犬猫の
数は約12万8000匹だった。
愛護意識の高まりで減少傾向にあるものの、
毎日約350匹が処分されている計算だ。
昨年は小型犬が大量に捨てられる事件も起きた。
「実態を知ってほしい」。自治体で処分に携わる
職員の苦悩は続く。
◆罪の意識
捨てられた犬や猫を引き取った自治体は、
譲渡先を探す。
最近は愛護団体と協力して新たな飼い主を
見つける活動が奏功し、札幌、熊本両市は
14年度の犬の処分がなく、神奈川県(横浜市
など除く)は犬猫ともゼロを達成した。
しかし、多くの自治体では人員と飼育場所に
限界があり、「ゼロ」はほど遠い。
高知市にある中央小動物管理センターでは、
県と市が委託した企業の社員が二酸化炭素
(CO2)ガスで殺処分している。
14年まで約7年働いた野村笹乃さん(28)は、
苦しむ犬や猫を見て罪の意識を抱えてきた。
「どんな思いだったか知ってほしい」と訴える。
野村さんは、命を救うためには動物好きの行
動が鍵とみる。
好きだからと野良猫に餌をやれば繁殖し、
鳴き声やふんに困った人が処分を依頼する。
悪循環をよそに、餌をやった本人は増えた
猫の世話や掃除はしない。
「地域で掃除や避妊去勢に取り組めば助かる
命は多い」。
野村さんは退職後、小動物看護師や訓練士の
資格を取った。飼い主と動物に手厚く対応できる
力を生かし、殺処分を減らすのが目標だ
◆「安楽殺」
「ごめんな」。3月、山口県下関市の動物愛護
管理センター。
和田敏夫センター長(56)=当時=は、猫4匹に
声を掛け「麻酔薬注入」のスイッチを押した。
薬が処分室に充満すると意識を失い、30分
ほどで息絶えた。
環境省によると、自治体の殺処分は、CO2
ガスで窒息させるか、麻酔薬の注射が主流。
ガスは酸素が薄くなり大きな苦痛を伴うとされ、
注射は1匹ずつのため獣医師の負担が大きい。
下関市は09年、約10億円をかけて麻酔薬を
吸わせる今の施設をつくった。以前は筋弛緩剤を
注射しており「殺すために獣医師になったん
じゃない」と漏らす職員もいた。
和田さんは「人と動物の負担を和らげる意味は
大きいが、あくまで安楽死でなく『安楽殺』だ」と語る。
夜には泣きわめく犬や猫が夢に出た。
「慣れるとおかしくなりそう」と悩み、4月の異動で
センターを去った。
全国初の災害派遣獣医療チームを結成する
など、動物のケアに携わる福岡県獣医師会の
船津敏弘さん(58)は「臭い物として殺処分の
現実にふたをしているのが今の社会だ」と指摘。
癒やしを求めるだけでなく、社会全体で動物を
守る責任があると話した。