この春から高校球児になった息子。
進学した学校では、朝のHR前に読書の時間があり、自分で本を準備しなければなりません。
「高校野球をするのなら、この本は避けて通れないよね」ということで、最初の1冊として、「アルプス席の母」(早見和真著)を手渡しました。
野球の才能に恵まれ、甲子園初出場を狙う高校に推薦入学した息子を持つシングルマザーの話ということで、母親への感謝の気持ちを持って欲しいという思いを込めて。
ただ入手して、渡して終わりではつまらないので、息子が読み終わった後で、あいだも読んで、感想をシェアしようと思っていました。
思い続けて数ヶ月、最近ようやく読み終えました。
…良かった(顔を斜め上に向け、目を閉じて、右手を肩の前で握りしめる)。
全体のストーリーが秀逸なのはもちろんですが、主人公、いや、主人公は母親なので、主人公の息子、が最上学年になってからの、チームメイトとの関わりや、その様子を母親目線で観察する描写が印象的でした。
エース候補として入学するも、肘の怪我→手術、そして他校に進学したライバル投手の著しい成長を目にして自信をなくし、投手から野手への転向を決めた息子くん。
なかなか結果が出せず、秋の大会ではベンチにも入れませんでした。
でも、彼は腐ることなく、チームのためにできることをしようと、皆がやりたがらないことを率先して引き受けます。しかも、「自分はポイント稼ぎのために雑用をしている」と明るく公言し、チームメイトからツッコミを受けることで、雰囲気が悪くならないように配慮しながら。
チームのムードメーカーとなった息子くんが、秋の大会の決勝戦前に、キャプテンに請われ、士気を高めるためにかけたのが、「勝って、甲子園に行って、また一(いち)からメンバー争いをしよう」という言葉。
試合に出るメンバーに対して、勝ってくれとエールを送る一方で、次の大会もレギュラーでいられると思うなよという宣戦布告もしてしまう。
全員の闘志に火がついたシーンがリアルに想像できてしまいます。
そして、チームのメンバーが、仲は良いけれど、馴れ合ってはいないことも。
この「仲はいいけど馴れ合っていない」という状態、チームとしては理想だと思うのです。
メンバー内に力関係の強弱があるチームでは、強い者が弱い者に遠慮なく意見すれば、パワハラと見られかねませんし、弱い者は強い者に意見しづらくもあります。
このような状態では、他のメンバーに意見するのが難しく、チームとして大きな力を発揮するのは難しいでしょう。
メンバーが互いに対等であると認識していればこそ、言いたいことがきちんと言えて(心理的安全性が高くて)、チームが良い方向に進んで行くのだと思います。
野球という競技の側面だけを見れば、メンバー間に実力の差があり、試合に出られる者と出られない者とが生じるのは致し方ありません。
このとき、「試合に出られる=立場が上、試合に出られない=立場が下」という考えではなく、試合に出られない、ベンチに入れないメンバーも、チームにとっては欠くことのできない存在であるとの意識がチーム全体に浸透しているからこそ、仲はいいが馴れ合ってはいないチームができるのではないでしょうか。
作中のチームにおける心理的安全性は、全寮制で、メンバーが24時間一緒に過ごしているという「密」な環境下で生まれたものでしょうから、我々の職場において同様の環境を期待することは難しいでしょう。
ただ、理想のチームを生むきっかけとなった息子くんの態度、すなわち、自分のできることでチームに貢献するという姿勢は、取り入れることができるはずです。
現在所属しているチームに対して、自分が貢献できることは何か。
改めて問いかけたくなった作品でした。