源氏物語イラスト訳【紅葉賀171】人妻は
「人妻はあなわづらはし東屋の真屋のあまりも馴れじとぞ思ふ」
とて、うち過ぎなまほしけれど、
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には少し興味を持って、ちょっかいを出しています。
源氏物語イラスト訳
「人妻はあなわづらはし
訳)「人妻は、ああ面倒だ。
東屋の真屋のあまりも馴れじとぞ思ふ」
訳)『東屋の真屋のあまり』ではないが、あまり親しくなるまいと思います」
とて、うち過ぎなまほしけれど、
訳)と言って、通り過ぎてしまいたいけれど、
【古文】
「人妻はあなわづらはし東屋の真屋のあまりも馴れじとぞ思ふ」
とて、うち過ぎなまほしけれど、
【訳】
「人妻は、ああ面倒だ。『東屋の真屋のあまり』ではないが、あまり親しくなるまいと思います」
と言って、通り過ぎてしまいたいけれど、
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
■【人妻】…他の人の妻。他の人の夫。催馬楽「東屋」の「我や人妻」を引いた表現
■【は】…取り立ての係助詞
■【あな】…ああ(感動詞)
■【わづらはし】…面倒だ
■【東屋の真やのあまり】…催馬楽「東屋」の「我や人妻」を引いた表現
■【も】…強意の係助詞
■【馴れ】…ラ行下二段動詞「慣る」未然形
■【じ】…打消意志の助動詞「じ」終止形
■【と】…引用の格助詞
■【ぞ】…強意の係助詞(結び「思ふ」)
■【とて】…~と言って
※【と】…引用の格助詞
※【て】…単純接続の接続助詞
■【うち過ぎ】…ガ行上二段動詞「うち過ぐ」連用形
■【な】…完了の助動詞「ぬ」未然形
■【まほしけれ】…希望の助動詞「まほし」已然形
■【ど】…逆接の接続助詞
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
男と女のやりとりは、こういう『源氏物語』などの、時代を超えた普遍的な物語こそ、豊かなバイブルにもなり得ます。
いま一度、舞台設定を確認してみましょう。
雨上がりの神聖な温明殿(うんめいでん)にて、
源典侍(げんのないしのすけ)が、優雅に琵琶を弾いています。
年老いて、なお色好みであるとはいえ、
催馬楽(さいばら)を引いた、しゃれた男女のかけ引きをしてくるので、光源氏は慰めの意味もあり、催馬楽の「東屋」の引き歌で、ちょっと応酬してみました。
すると、源典侍は、
「おし開けて、来ませ」と、「東屋」の引き歌で源氏を誘いかけ、
さらに、「立ち濡るる…(どうせ私の東屋になんて、誰も来ないわ)」という、自虐的な和歌を源氏に詠みかけます。
年増とはいえ、高級女官との知性や機知に富んだやりとりを楽しむつもりだった光源氏は、ちょっと引いてますね。
この、「あなわづらはし」の和歌は、
二句切れの、この感動詞の部分に、源氏の思いがすべて集約されています。
けれども、女性への気遣いのできる光源氏。
このあと、逆接展開なので、実際に、この攻撃的な返歌を投げかけては、いないようですよ!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
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