■カリフォルニア大学サンフランシスコ校の生理学者、
ベンジャミン・リベット(1916 – 2007)は、
人間がある動作をしようとする
「意識的な意思決定」以前に、
「準備電位(Rediness Potential)」と呼ばれる
無意識的な電気信号が立ち上がるのを、
脳科学的実験により確認した。
私たちの脳内では、
「意識的な決定」を示す電気信号の約0.35秒前には、
それを促す無意識的な「準備電位」が現れている。
つまり、「脳活動という物理的な現象が〈原因〉であり、
人間の意志が生じるのはその〈結果〉にすぎない」
という「解釈」が成り立つ。
■この「解釈」は正しいのでしょうか?
リベットの実験は「人に自由意志はあるのか」
と言う観点で捉えられています。
つまり、人がそれぞれ持つ「自由意志」のもと、
行動や選択を行うと考えられていました。
すなわち、「自発的な行為」とは、
「意識的な(心が)起動して、そうするよう(脳に)指示している。」
という考え方です。
しかし実験では、私たちが「意識する0.5秒前」に、
自発的活動に結び付く「脳の活動」がすでに始まっていたのです。
そのあとで、活動しようという「意識」が生み出されたのです。
■リベットの実験は「意識と無意識」の問題
人間には「意志が脳とは別に存在」し
「意志が脳を動かす」と考えるのは、
「デカルトの二元論」になってしまいます。
そうではなく、
「脳活動の結果が意志」として現れると考えると
『脳の活動は「無意識」』であり、
その結果が「意識」として「意識される」ことになります。
つまり、人間の「意識は無意識の産物」と考えられます。
「脳の活動」を「脳が直接知覚することはできません。」
「自分の目」を「自分の目で見る」ことが出来ないのと同じです。
ですから、「脳」は「バーチャルな脳」を脳の中に作り、
その脳を観察することにより、自分自身の脳活動を知ることが出来るのです。
この「バーチャルな脳」を
「意識」「顕在意識」「表層意識」などと呼ぶのです。
「脳の活動」は「潜在意識」「深層意識」あるいは「本心」です。
すなわち、『氷山の海面に出ている部分が「意識」であり、
海面より下の部分が「無意識」である。』といった
フロイト以来の「意識と無意識」の認識が間違っていたのです。
「意識とは」無意識が作り出した「偽物の意識」だったのです。
だから「意識」と「本心(無意識)」に「ズレが生じる」ことがあるのです。
もちろん、「意識は無意識より後」になることは言うまでもありません。
リベットの実験は「意識と無意識」の関係を逆転させました。
脳科学における「コペルニクス的転回」と言えると思います。