旅人森で | ai-clockさんのブログ

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ぼくが旅する理由は沢山ある
いろんな空を見たい
いろんな大地を訪ねたい
いろんな人と話したい
でも旅立った理由は唯一つ

会いたい人がいる

流れる身を任せ
いつか辿り着く日を待ち望んでいるのだ




樹の上に登った二十歳ぐらいの旅人は、

望遠鏡で遠くを覗いている。
見つめる先には鬱蒼とした森が

立ちはだかっている。
旅人は溜め息混じりに呟く。
「また、ここに来るとはね…」
旅人は望遠鏡を仕舞い、

樹から飛び降りた。

薄暗い森の中、

旅人は深々とフードを被り、

黙々と歩き続けている。
目指すは、『彼女』の住む家。

もう数時間は歩き続けている。

久し振りに会うが

元気にしているだろうかと考えたが、

すぐに心配する必要もないと頭を振った。

なんせ、『彼女』は人間じゃないのだから。
「ここの辺りだったような…」
旅人は思案顔で歩みを止めた。

この辺りだったはずだ、

最後に『彼女』と会ったのは。


「あいも変わらず、

馬鹿みたいに歩き回っているのね」


不意に抑揚のない少女の声が聞こえてくる。

姿は見えないが、旅人は表情を少し緩めた。
「久しぶりだね」
「…そうね」
旅人は、そのままの体制で返答する。


「この森の『魔女』に何の用かしら」


いつの間にか黒衣を纏った少女が姿を現した。

旅人は、やや呆れ気味に言う。
「…君は、女神になったんじゃないの」
少女は首を振った。
「まだよ…強いて言うなら精霊かしら」
「ややこしいなあ…」
旅人は肩をすくめた。
「私の事はいいのよ…あなたの用件を言いなさい」
少女は旅人に問う。
旅人は苦笑いを浮かべ、本題を話した。

これから必要になると確信したからこそ、

ここに来たのだ。
「前に預けたものを取りに来た」
「あら、何かと思えば、その程度のこと」
少女はひらりと手を振った。

瞬間、少女の手には、

鞘に収まった一振りの刀が握られていた。

旅人は刀を見つめると、

安堵したように表情を崩した。
「こんな武器を使うなんて、

一体どういうつもりなの」
そういって少女が剣を鞘から抜けば、

透明な刀身が現れる。

神秘的な雰囲気を纏ったこの刀は、

旅人にとっては魂の継承の証であった。
「この通り、整備は完璧よ」
「助かるよ…」
旅人は刀と鞘を受け取る。
「まったく、あなたも物好きだわ…まだ探す気かしら」
少女は呆れたように手をひらひらと降る。
旅人は苦笑いのままだ。
刀と鞘は淡い光を帯び始める。

旅人は目を静かに閉じ、

刀と鞘を包み込むように抱いた。
「あの人は、もっと長いこと私を探したんだ」


「だから何?

あなたがそこまで苦しみながら、

探し続ける価値があるものなの?」


少女は旅人を見据える。

その瞳には、正に仲間を思う憂いを含んでいた。

「…そうだね、苦しい事ばかりだ」

旅人は静かに瞼を開けた。
刀と鞘から生まれた光は、

旅人の体に吸い込まれていく。

まるで、旅人の体の中に帰るように、

刀と鞘は消えていった。

旅人は静かに悲しげな笑みを浮かべ、

穏やかに話し始めた。

「探し続けること…

待ち続けること…

こんなに苦しいとは、思わなかったよ」

確かめるように、旅人は自分の掌を見つめる。

「でも、諦められるほど

軽いものでもないんだ、私の願いは……」

少女は静かに溜め息を吐いた。

「……あなたは、大馬鹿者だわ…」

「確かに、あの人のように

探す当てを見つけられるわけじゃないし、

見込みはゼロに等しい」

それでもと、旅人は掌を握り締める。
「『僕の』……いや、私の心は、

まだ、あの人のところには追いつけないのさ」

だからと、少女をしっかりと見据えた。


「希望が消えない限り、私は諦めたくない」


少女は溜め息を吐いて手を振った。
「やるのは勝手だわ…でも、また来ないと怒るわよ」

「ああ……ありがとう」

暗に、生きて帰って来いと心配しているのだ、

この小さな『精霊』は。
ひっそりと苦笑いして、

旅人は手を振る。
そこには、透明な刀身を持つ

一振りの刀が握られていた。

旅人の体に帰った刀に間違いなかった。
「考えておくよ」
旅人は刀を軽く振った。

刀は光になって霧散する。

少女はその光景を見て、

呆れたように腰に手を当てた。

「……あの時のまま、

時間が止まっているみたいね……あなたは」

「君に言われたくないなあ」

「私は精霊だもの、時間が止まって当たり前」

「あの神様は元気?」

少女は一瞬虚を突かれたように

驚いた表情をしたが、

すぐに幸せそうな笑みを少し浮かべた。

「……ええ、元気よ、あのお人よしは」

「彼の場合、君限定だろうに…」

旅人は再び苦笑いを浮かべると、

少女に右手を差し出した。
「邪魔したね、ありがとう」

少女は手を取り、握手を交わす。
「気をつけて」
それだけ言った瞬間、

旅人は森の外に立っていた。

旅人は振り向いて、

森のそばにある村――いや、廃墟を見つめた。

「……『暗闇の森』か

…そりゃ『家族』を傷つけられたら、

誰だって怒るだろうに」


この森に来る前に聞いた噂話がある。

『暗闇の森』という場所があり、

その守り神の怒りを買った村が、

滅ぼされたと。

そしてその村は昔、

村に住み着いていた『魔女』を

退治したという伝説があった。