緊張しながらも、和やかにご挨拶を終えたあと、森先生が、先にお出しくださいましたお茶を頂戴してから、レッスンに。

おしぼりは、お庭の紫陽花の葉っぱにのせて。
品の良い茶碗に入れてくださったお煎茶は、一口ふくむとふわっと香りと甘さが広がって、美味しい。
どれだけこの一椀に心を込めてくださっているかわかりました。
感動しながら、お茶を頂きましたら、早速レッスンに。

先ほどまでの、やさしい眼差しから、ピシッとしたお声になって、
「 用意してらしたスピーチ。早速語ってごらんなさい。」
心臓が、いきなり早打ち。
ドキドキしながら、
でも、前回のお昼の教室で練習させて頂きました時、皆様から褒めてもらったスピーチを、語りました。

先輩方、沢山いらっしゃる中で、アシスタントに、とお声をかけて頂いたのです。
初めて参加した 合同スピーチ発表会でも、優秀賞を頂いたのです。
選ばれた、と、思って伺っておりました。
(河本先生のお教室でお聴きできた皆様の感想の他、
森先生は、どの様に、私のスピーチに感想を持ってくださるかしら。)
(まだ、直すところがあるとしたら、
森先生はどの様に直してくださるのかしら。)
そんなことを思いながら話終えてから、先生の言葉を待ちました。

先生は、レッスンになったとたん変わった少し難しそうな表情のまま、聞き終わると、
今のスピーチに関しては何も仰ることなく
「 次の話をしてごらんなさい。」

どの様にレッスンがなされるのか全くわからないままに、伺っていた私は、その声に、
少々震えながら、
次の話を、なんとか。

そうすると、また、同じように、じっと私を見ながら、
次の話、と、仰るのです。

まず、準備して行っておりませんでした。
いきなりスピーチを、続けて3つすることになるとは思いもしていなくて。
内心、怖さに震えながらこれまで教室で練習したスピーチを、思い出しながらなんとか語りました。
3つ、続けて語り終わった途端に、先生から厳しい声で言われた言葉が、

「 考え方が違うのよ。あなた。」

そのあとは、しばらく沈黙です。

何がどの様に違うのか?
考え方って、この3つのスピーチのどれ?
何?

色々心の中で思いましたが、尋ねることも、怖くてできません。

それ以外、それ以上、何も伝えて頂けないまま、
しばらくの沈黙のあと、
小6の国語の教科書からプリントした原稿を渡されて、
「 語ってごらんなさい。」

あの、発表会の時の司会原稿を渡された時と同じです。
「 読んでごらんなさい。」
ではないのです。
語って・・・
もうこの違いだけで、心臓がバクバク。

あの時と同じ様に、
「 暗い! 暗い!   暗いのよ!」

と、無表情から出る小さいけれど、厳しい声と、    言い方に、震えながら
時間をようよう過ごし、
何もわからないまま、
「ありがとうございました。」と、辞する時のご挨拶とお辞儀、次のレッスン日のお約束をして門を出たら、
閉められた扉の外で、
そのまま、声を出さない様に
歩き出せる状態になるまで、
泣く。そうしないと帰れない。

そんなレッスンを、何回か繰り返しました。

怖くて怖くて、自分が情けなくて、何が悪いのか、どうしたらいいのか、わからないまま、
でも、通うことは辞めませんでした。
ここしか他にどこにも行きたい道はありませんでした。
行ける場所も、ありませんでした。

でも、それよりも、諦めずにすんだのは、どんなに厳しくても、その言葉の中に
私を育てたいと思ってくださっている愛が感じられたからです。
そうして、お陰様で、一ヶ月過ぎ、二ヶ月過ぎ、三ヶ月も
過ぎた頃には、冗談を言いながら、笑いながら、楽しく嬉しい学びの時間を過ごすことができるようになりました。

個人レッスンの時に、どなたかお客様がいらした時には、先生に代わってお茶をお出ししたり、お掃除や、道具の使い方、扱い方なども、
その場で教えて頂くことができました。

まだ小さかった息子を連れてレッスンに行った時は、先生のご主人様や息子さんに遊んで頂いたり、ご家族皆様で、私のレッスンをサポートして頂きました。

半年程過ぎた頃、
思い切って、先生にお尋ねしました。

「こんなに何もできない。
スピーチも、朗読も、下手な私をどうしてアシスタントにと思ってくださったのですか?」

森先生から、伝えて頂けました。
「 本当に(笑)
あの、発表会の時の司会だって、素晴らしかったわ、と伝えたけれど、ちっとも。
もう心配で、心配で、自分がした方がどんなに楽だったか。(笑)
でもね、
あなたを選んだのは、あなたはどこで出会った時も、いつも笑顔でいたから。
何があっても、笑顔でいたから。

ここに通い始めた頃、あなたが、門を出た途端に毎回泣いていたこと、知っていました。
それでも、あなたは辞めなかった。
私の言葉に、必死でついてきた。応えようとしてた。
その姿を見て、私も、本気になってあなたを育てようと思いました。
あなたが本気かどうか、ついてこれる人か、どうか、
ダメなら、出来るだけ早く、道を替えさせた方があなたのためにいいから、
はじめ、わざと厳しくしていました。
よくがんばりましたね。」

先生は、私の人生にまで責任を持って接してくださっていたのだと知り、涙が出ました。
そして、さらに、感謝・尊敬。
この出逢いの有り難さに、神様に感謝いたしました。
お陰様で、今の私につながりました。