『 正直に謝ったときの優しい言葉 』


私の記憶の中で、ある感慨をもって思い出される

森本のおばちゃんの話をします。



森本のおばちゃんは、

4歳の頃、私が住んでいた家の近くの農家のおばちゃんでした。


陽に焼けた肌。 深い皺に刻まれた頑固そうな顔。

大きくはないけれど、がっしりとした体格。

絣のもんぺに 柄物の割烹着。

頭に手ぬぐいを 姉さん被りにして、

一年中、

朝から晩まで 野良仕事をされていました。


野良仕事のおばちゃんの側では、小さな2人の孫がよく遊んでいて、

時々その孫たちを叱責する

おばちゃんの太く厳しい声が聞こえていました。


森本のおばちゃんは近所の子どもたちにとって恐い存在だったのです。


6月のある日、

近所の畑で、私は

黄色の大きな花がいくつもきれいに咲いているのを見つけました。


初めて見る珍しい花にすっかり喜んで、

咲いている花も蕾もみんな摘んで、

近所のお姉ちゃんと その畑の隅で ままごと遊びを始めました。


どれくらいたったか、

突然雷が落ちたかと思うほど激しい怒鳴り声がして、

びっくりして目を上げると、

仁王様のような形相で拳を振り上げた森本のおばちゃんの姿がありました。


その時は知らなかったのですが、それはかぼちゃの花だったのです。

 

あまりの恐ろしさに、

2人ともそのまま家まで一目散に逃げ帰ってしまったのですが、

夜になってから、泣きながら 母に有りのままを話しました。


母は、話し終えるまで黙って聴いてくれた後、


「お母ちゃんも一緒に謝りに行ってあげる」 と言ってくれました。


夜道を、どんなに叱られるかと覚悟して謝りに行った私でしたが、

森本のおばちゃんは今まで見たことがない優しい目で、


「ちゃんと謝りに来れたんやから、もうええ。  えらかったな」


と、頭を撫でてくださり、

母には、採れた野菜を持たせてくださいました。




あの年、 森本のおばちゃんの家では、

かぼちゃが食べられなかったんだと 申し訳なく思うとともに、

とても懐かしく 有り難く 思い出されます。