『言葉の意味をよく知らないで使うと…』


先月、亡き母の思い出を綴った原稿を読んでくれていた娘が、

急におどけた調子で、


 「嘘もいけないけど、

  言葉の意味をよく知らないまま使うのも良くないよ」

と、申しました。


 (ン?この話はどこからきたの?) 

と、少し不思議に感じながらも、


 「そうやねェ。わからないのに使うのも良くないよねェ」

と、申しますと、


 「そう。使う時は、よくわかって使わないと、後悔する・・」

と念を押すように重ねてから、


 「知ったこっちゃない、って言葉、あるやん…」


 「私、その言葉を何かで聞いた時から、

  それが人を拒否したりバカにしたりする意味を持ってるって知らなくて…、

  知らないって言うのを、少しかるく面白く言う言い方だと思ってて…、

   一度、私も使ってみたいと思ってたの…」


 「それで、おばあちゃんの家へ行った時に、

  おばあちゃんから 『○○どこにあるか知らない?』って訊かれた時、

  今だって思ってワクワクしながら 『知ったこっちゃない』って答えたの…」


 「おばあちゃん、すごく怖い顔になって、ものすごく叱られて…」


 「でも、その時はどうしてかわからなかったから、ものすごく悲しかった…」


 「それからしばらくして、どんな意味を持っているか知ったんだけど、

  そんなつもりで言ったんじゃない、ごめんなさいって、

  ずっと言い出せなくて…」


 「その後、おばあちゃん急に死んじゃったから…、言えないまま…。

  おばあちゃん、悲しかったやろね、

  私からあんなひどいこと言われて…」


無理におどけて話し出した娘の顔は、

 ここ迄話した時には、目に涙が溢れていました。


(そうか…。そんなことがあったんだ…。

母が亡くなった15歳の冬から5年間、

誰にも言えないまま、

おばあちゃんを傷つけた自分を、ずっと責めていたんやね・・)


亡き母も、何も不安に感じることなく、毎日を楽しく暮らせていたら、

同じ孫の言葉でも、明るく受け止められていたかも知れないと、


娘として自分の至らなさを申し訳なく思いながら、

この話ができたことで、

娘の心が少しでもかるくなれていたらいいなと、願いました。