『心を込めて掃除をする姿の美しさ 』


 今の家に引越す前のお話です。


 朝、家の前の道掃除を始めてしばらくしてのことですから、

13年程前のことになります。


 早朝、家の近くを車で通っていて、

偶然、同じ町内のTさんの奥様が道掃除をなさっている姿を拝見しました。


Tさんは、ご自宅から20メートル程離れた橋の欄干の下を、

箒を使ってサッサッと掃いていらっしゃいました。


 Tさんの丁寧な、でも手際の良いしごく自然な動作と、

和やかな表情は、思わず見とれる程美しかったことを覚えています。


 その姿を拝見して、私はTさんが、ご自宅から橋の上迄のお掃除を毎日、

長年続けていらっしゃったことを理解しました。


 町はゴミやタバコ等のポイ捨てが多い地域でした。


 私の家の隣りは空き地だったので、

その辺りの掃除も一緒にしていたのですが、

その頃の私は、 大変恥ずかしいことに、 少し損をしている様な、

あるいは、してあげている様な気持ちを持っていたのです。


 そして、そんな時、Tさんの姿を拝見したのです。


 その時から、私は、心を改めました。

そして、道掃除に心を込めました。


すると、とても気持ちが穏やかに、清々しくなりました。


 Tさんは、私に言葉で教えて下さった訳ではありません。

お手本を示そうとして見せて下さった訳でもありません。


ただ、そのにこやかに黙々とお掃除をなさっていたお姿から

気付かせて頂けたのです。


 今回は、Tさんのお掃除のことを書かせて頂こうと思っていましたら、

偶然にも先日、父の旧友のSさんからこんなお便りが届きました。



 暑中お見舞い申し上げます。

数年前から私、週に三回、T老人センターへ入浴に行っています。

それも、いそいそと。

ここの掃除婦のおばさんにはほとほと感心。

床もトイレも雑巾がけ。 冬でも半袖で。

賃金以上の働きぶりは明らか。(中略)


 掃除婦の円き笑顔は陽のごとく我が心の隅まで明るくなせり