人は存在するだけで、人に何かを伝えることができる
先日、東京の相田みつを美術館で、
相田みつをさんのお写真に出会いました。
写真は、白黒で上半身の横姿。背筋をすっと伸ばし、
一点を見詰める瞳は深く、
合掌なさっているそのお姿からは、
余分なものを一切削ぎ落とされた相田さんの、
美しい生き方が伝わってきて、
思わず足を止め見入ってしまいました。
そして、そのお写真を拝見しながら、
他にお二人の姿を思い出しました。
おひとりは、その前夜に、ある会でお会いした石川洋先生。
もう何年も前、姉が石川洋先生の
『歩いたあとに一輪の花を』の本をプレゼントしてくれました。
石川先生は、その本に書かれていたお姿のまま。
何百人もの人が集った会場の壁際に静かに微笑み、
本当に静かにお座りになっていました。
そこだけ時が止まり、別世界の様に清らかに感じられました。
そして、もうおひとり。
もう10年以上前になりますが、県外にお仕事を頂き、
早朝、プラットホームに立った時の事です。
春、まだ肌寒く、ぴーんと空気の澄みきった朝。
ホームの2両目辺りで列車を待っておりましたが、
少し早く着いていたので、先の列車を一本見送りました。
目の前で徐々に加速していく列車をなんとなく見ていたのですが、
最後尾まで進んだ時、私の目は止まりました。
走り去って行く列車の最後尾、ガラス窓の向うに、
敬礼姿の車掌さんの姿が見えました。
40歳後半位でしたでしょうか。
静かな眼差しで、姿勢を正し、
ホームから列車が離れてからも微動だにせず、
列車の後姿が見えなくなる迄、敬礼姿を崩されなかった
あの車掌さんの美しいお姿は、今でも目に焼き付いています。
自分の仕事に誇りを持ち、誰が見ていなくても常に変わらず、
誠実に生きていらっしゃったあの方のお心が届いた様で、
涙が出る程感動しました。
人は存在するだけで、多くのものを人に伝えます。
であるならば、少しでも、この方々の様に、
美しいものを伝えられる自分になりたいと思います。