ある講演会に参加した時のこと。

その講演会は、全国から主宰者と親しい方々が集まっていらっしゃって前夜祭が開かれています。

毎年、前夜祭が開かれているのは、福崎町の素朴な温泉宿です。

今年の前夜祭も、皆様のジョークやユーモア溢れるお話で大変盛り上がりました。


そして翌朝、出発迄のひと時、皆ロビーに集っておりました。

宿の方は、ロビーにも受付にもいらっしゃいませんでした。 

いよいよ出発する事になり、皆一斉に立たれたのですが、

私はもたもたしていて、ひとり遅れてしまいました。

見ると、椅子2つが出しっぱなしのままです。

一緒に片付けないとねと思っていたところに、

皆と一緒に玄関に向われた大村峰緒さんがすっと戻っていらっしゃいました。

村さんは、目が合うと必ず、にっと笑って下さる男性です。

村さんは、黙って乱れている2つの椅子をきちんと納め、

その後一瞬立ち止まり全体を確認なさった後、

何事もなかった様に、又玄関に向かわれたのです。

きっと大村さんは、皆が立ち上がって歩き始めた瞬間に、出しっぱなしの椅子に気付かれたのでしょう。でも、そこですぐに直すと相手に恥をかかせることになります。

だから、一緒に玄関迄行ってから何くわぬ顔で引き返していらっしゃったのです。


その気配りに感動しながら後ろに付いて玄関近く迄行きましたら、

自動ドアの向うに先に出られた落合勲さんの後ろ姿が見えました。

ドアを出て3m程進まれた落合さんは立ち止まり、きれいに廻れ右をして、姿勢を正し、私共が泊まっていた建物全体を見上げ、それから深々とお辞儀をなさいました。

一晩宿泊した宿に向って。

それは、息を飲む程、美しい光景でした。

人にあれこれ言うのではなく、自分が美しく生きようとなさっているお二人の姿を拝見することができ、

頭が下がると共に、とても幸せな気持ちになりました。