もう10年位前になりますが、

ある大学の3年生に就職の為の面接研修に伺った時の事です。


研修の始めから、ずっと仏頂面で下を向いたまま、

時々脇見をして、いかにも聞く気のなさそうに見える学生がいました。

何を伝えても全く反応もなく、

余程やる気がないのかと思いながら話し終え、

最後に、何か質問はありますか?と、会場に問い掛けたところ、

意外な事に、その学生が下を向いたまま手を挙げたのです。


思わず心の中で、(え?あなたが質問するの?話を聞いていたの?)

と呟いてしまったのですが、彼の質問はこうでした。

「人の話を聞く時は、どこを見ていたらいいんですか?」


当時の私には思いがけない質問で、

驚いて、 「今迄はどうしていたのですか?」と問いますと、

相手の顔を見ては失礼なのじゃないか、

かと言って下ばかり向いているのも変な気がして、

わからなくてずっと困っていた、との言葉が返ってきました。


更に驚いたのはその後でした。

彼がそう言うと、

彼と同じ様に下を向いたままだった学生達が

「そうそう、僕もわからなくて困っていた」

と一斉に声を出したのです。


尋ねてみると、

小さな頃からの塾通いや親の仕事等で

家で食事をする時は、殆どひとり、

たまに家族と一緒の時も、

皆テレビを観ながら食べているから話をしない。

友達と遊ぶ時はゲーム。

今の趣味はパソコン。

人と向き合って会話をする事は殆どない。

人と話す時、聞く時、

どこを見たらいいか誰も教えてくれなかった。

だから、いつも不安だった・・・と。


それらの言葉を聴いて、

彼らはやる気がなかったのではなく出来なかったのだ、

知らなかったのだと知りました。

同時に、

人の話を聴く時は相手の目を見て聴くのは当たり前という

私の当たり前が人の当たり前ではない事も。


そして、自分の勝手な思い込みで、

彼らをやる気のない人と決めつけた事を

とても傲慢だったと反省しました。


それ以来、聴いてみなければ解らない事も多いから、

まず聴く、と、

何故しないと思うより先に、

自分の姿や言葉で伝えていく、を大切に心掛けたいと思っています。