名誉毀損罪で「刑務所」行きになる人は何人?—実刑の厳しさと日本の刑事司法の現実

 

前回の記事で、名誉毀損罪の法定刑の上限が「3年以下の拘禁刑」であることをお伝えしました。では、実際にこの罪で**刑務所に入る(実刑になる)**人はどれくらいいるのでしょうか?

日本の刑事司法のデータから、その実情と、どのような場合に実刑という厳しい結果に至るのかを解説します。


 

 

⚖️ ほとんどの事件は「実刑」を免れるが...

 

まず、日本の刑事司法全体の傾向として知っておくべき重要な事実があります。それは、起訴された事件の有罪率が極めて高い(99%以上)一方で、有期懲役・禁錮の判決を受けた人のうち、実際に刑務所にすぐに入ることになる実刑(執行猶予なし)の割合は少数派であるという点です。

 

1. 名誉毀損罪の「罰金刑」の割合

 

名誉毀損罪は、その法定刑に「50万円以下の罰金」も含まれています。刑事裁判において、名誉毀損罪単独で起訴された場合、ほとんどのケースで罰金刑が選択される傾向にあります。これは、身柄拘束を伴う「拘禁刑」よりも軽い処分と見なされます。

 

2. 拘禁刑(懲役・禁錮)でも「執行猶予」が付くことが一般的

 

仮に、裁判所が名誉毀損罪に対して罰金刑ではなく拘禁刑(1年以下、2年など)を選択した場合でも、その刑の全部に「執行猶予」が付くことが一般的です。

  • 執行猶予とは? 「一定期間(例:3年間)罪を犯さずにいれば、刑の言い渡し自体が効力を失い、刑務所に入らなくてもよい」という制度です。

日本の刑事裁判全体で見ると、有期懲役判決が確定した人のうち、執行猶予が付く割合は約6割以上に達しています。名誉毀損罪の場合、事件の態様にもよりますが、執行猶予率が高いことが推測されます。


 

 

🚨 それでも実刑となる「例外的なケース」

 

ほとんどのケースで罰金や執行猶予となる名誉毀損罪ですが、例外的に実刑(執行猶予なし)となり、刑務所に入らざるを得なくなる人も存在します。実刑判決に至るケースは、前回の記事で述べたような「悪質性」が極めて高い事例に集中しています。

実刑となる代表的なケースは以下の通りです。

 

1. 執行猶予期間中の再犯

 

最も実刑になりやすいパターンです。 過去に他の犯罪や名誉毀損罪で執行猶予付きの判決を受けている期間中に、再度、名誉毀損や他の犯罪(例:脅迫、侮辱)を犯した場合、今回の犯罪の刑が重くなくても、前回の執行猶予が取り消され、前回の刑と今回の刑を合わせて服役することになります。

 

2. 極めて悪質・執拗な行為

 

  • 長期間にわたり、多数の被害者に対して計画的、かつ執拗に名誉毀損行為を繰り返した。

  • 被害者が精神的な病気や自殺に至るなど、行為の結果が極めて重大で、行為の悪質性が社会的に許容できないと判断された。

  • 裁判において反省の態度が全く見られず、被害回復の努力も著しく欠けている。

このような事例では、「再犯の防止」や「一般予防(社会への警鐘)」の観点から、裁判所はあえて執行猶予を付けず、実刑判決を下すことがあります。


 

 

✒️ まとめ:インターネット上の行動は慎重に

 

名誉毀損罪で実刑判決を受ける人は、全犯罪者数から見ればごく少数かもしれません。しかし、その少数の中に入る人は、人生を大きく狂わされることになります。

特にインターネット上での誹謗中傷は、匿名性の影に隠れてエスカレートしがちです。「軽い気持ち」や「冗談」が、執行猶予の取り消しや、突然の実刑判決という取り返しのつかない結果を招く可能性があることを、深く認識しておく必要があります。