「貯金から投資へ」は本当に正しい? 資産形成の考え方と賢い一歩の踏み出し方
近年、政府が提唱し、新NISAの開始などで注目度が高まっているスローガンに「貯蓄から投資へ」という言葉があります。
これは、私たちのお金を銀行預金に眠らせておくだけでなく、経済の成長や企業の収益に投資することで、より効率的に資産を増やしていこう、という考え方です。
しかし、「投資は怖い」「損をするのが嫌だ」と感じる人も少なくありません。果たしてこの「貯蓄から投資へ」の流れは、私たちにとって本当に正しい選択なのでしょうか?
今回は、貯金と投資のそれぞれの役割とメリット・デメリットを比較しながら、賢い資産形成の考え方をご紹介します。
1.なぜ今、「貯蓄から投資へ」と言われるのか?
「貯蓄から投資へ」というスローガンは、実は2001年から国によって掲げられています。そして、近年再び重要性が増している背景には、主に以下の2つの理由があります。
理由1:超低金利とインフレのリスク
現在の日本では、銀行の普通預金の金利は非常に低く、お金を預けていてもほとんど増えません。その一方で、インフレ(物価の上昇)が進むと、お金の「価値」は目減りしてしまいます。
例えば、100万円で買えたものがインフレで105万円になった場合、あなたの銀行にある100万円の価値は、実質的に下がっていることになります。資産を「守り」「増やす」ためには、預金だけでは難しくなっているのです。
理由2:年金など社会保障への不安
少子高齢化が進む日本では、将来的に公的な年金だけでは生活費が不足する可能性が指摘されています(いわゆる「老後2,000万円問題」など)。そのため、公的な制度に頼るだけでなく、「自助努力」で個々人が長期的な資産形成に取り組む必要性が高まっています。
2.貯金と投資、それぞれの役割を知ろう
「貯蓄から投資へ」と言っても、「貯金をすべてやめて投資に回せ」という意味ではありません。貯金と投資には、それぞれ果たすべき大切な役割があります。
項目 | 貯金(銀行預金など) | 投資(株式・投資信託など) |
役割 | 近い将来に使うお金、生活防衛資金 | 長期的な資産形成、老後資金の準備 |
安全性 | 元本保証があり、安全性が高い | 元本保証なし。価格変動リスクがある |
流動性 | 必要な時にすぐに引き出せる | 現金化に数日かかることがある |
リターン | ほとんど増えない(低金利) | 大きく増える可能性(高いリターン)がある |
貯金のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
元本が保証され、安全確実。 | お金が増えにくい(超低金利)。 |
必要な時にいつでも引き出せる(高い流動性)。 | インフレによってお金の価値が目減りする。 |
生活費や急な出費に備えられる。 |
投資のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
複利効果(利益が利益を生む)で効率的に資産を増やせる。 | 元本割れのリスクがある。 |
インフレに負けずに資産を増やせる可能性がある。 | 短期で利益を出すのが難しく、長期的な視点が必要。 |
NISAなど税制優遇制度を活用できる。 | 市場の変動に一喜一憂しがち。 |
3.「正しさ」は「バランス」にある
結論として、「貯蓄から投資へ」という考え方は、「資産形成の目標を達成するためには、低金利でインフレリスクのある貯金だけでは不十分であり、資産の一部を投資に振り向けるのが望ましい」という意味で正しいと言えます。
しかし、その「正しさ」は、貯金と投資のバランスの上に成り立っています。
賢い資産形成のステップ
1.生活防衛資金を確保する
まず最優先すべきは、緊急時に備える「生活防衛資金」を銀行預金で確保することです。目安は「手取り月収の半年〜1年分」です。この資金は、病気や失業など、万が一の事態に生活を維持するために使うものであり、元本割れのリスクがある投資には向きません。
2.残った「余裕資金」を長期・積立・分散投資へ
生活防衛資金を確保したら、当面使う予定のない「余裕資金」の一部を投資に回します。投資は、一気に大金を投じるのではなく、少額から「積立」で始めるのが初心者にはおすすめです。
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長期:10年、20年といった長い期間をかけて運用する。
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積立:毎月決まった額を自動で投資し、値動きに一喜一憂しない。
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分散:国内外の株式、債券など、複数の資産に分けてリスクを抑える。
特に、新NISAやiDeCoといった税制優遇制度は、この長期・積立・分散投資に適した制度であり、「貯蓄から投資へ」の流れを後押しする強力なツールです。
まとめ:あなたの目的と状況に合わせたバランスを見つけよう
「貯蓄から投資へ」は、将来の不確実な時代を生き抜くために、お金を「働かせる」という視点を取り入れる上で、非常に重要な考え方です。
しかし、投資を始める前に、まずは「何のために」「いつまでに」「いくら」お金が必要なのかという目的を明確にし、そのうえで安全性の高い貯金と、増やすことを目指す投資のバランスを考えることが大切です。
焦らず、ご自身のライフプランに合ったペースで、今日から資産形成を始めてみませんか。