なぜ自分の支持政党だけが「正しく」、他は「間違い」だと思ってしまうのか?〜社会の分断を乗り越える思考法〜

 

「あの政党を支持しているなんて、信じられない」 「どうして、あんな政策が良いと思えるのだろうか?」

テレビの討論番組やSNSのタイムラインで、一度はこんな言葉を見聞きしたことがあるのではないでしょうか。あるいは、友人や家族との会話で、つい口にしてしまった経験があるかもしれません。

自分の信じる政策や理念を掲げる政党を応援するのは、政治参加の第一歩として非常に大切なことです。しかし、その思いが強くなるあまり、いつの間にか「自分の支持する政党だけが正義で、他の政党は全て間違っている」という、硬直した考えに陥ってしまうのはなぜなのでしょうか。

この記事では、その背景にある私たちの「心のクセ」を紐解き、より建設的な対話を生み出すためのヒントを探ります。


 

無意識の落とし穴、「認知バイアス」が判断を曇らせる

 

私たちが特定の政党を「絶対的に正しい」と信じ、他を「間違いだ」と決めつけてしまう背景には、人間の脳が持つ特有の思考のショートカット、**「認知バイアス」**が大きく影響しています。

 

1. 都合の良い情報ばかり集める「確証バイアス」

 

確証バイアスとは、自分の考えや仮説を支持する情報ばかりを無意識に集め、それに反する情報を無視したり、軽視したりする心理的な傾向のことです。

例えば、A党を支持している人は、A党の政策を賞賛するニュースや評論家の意見ばかりに目が行きがちです。一方で、A党に批判的な記事やデータは「偏向報道だ」「何か裏があるに違いない」と最初から疑ってかかり、内容をきちんと吟味しようとしません。

SNSのアルゴリズムは、この傾向をさらに加速させます。私たちの興味関心に合わせて最適化された情報が次々と表示されるため、気づけば自分の周りは同じ意見で固められ、あたかもそれが世の中の総意であるかのように感じてしまうのです。これを**「エコーチェンバー現象」「フィルターバブル」**と呼びます。

 

2. 「仲間」をひいきし、「敵」を叩く「内集団バイアス」

 

人間は、自分が所属する集団(内集団)のメンバーを、そうでない人(外集団)よりもひいきし、好意的に評価する傾向があります。これを**「内集団バイアス」**と呼びます。

政治の世界では、「〇〇党の支持者」というグループ意識がこれに当たります。同じ党を支持する人には親近感を覚え、その意見に強く共感する一方で、対立する政党の支持者に対しては、「彼らは何も分かっていない」「自分たちのことしか考えていない」といったネガティブなレッテルを貼りがちです。

このバイアスが強まると、政策そのものの中身を冷静に評価するのではなく、「どの党が言っているか」だけで判断するようになってしまいます。本来、自分たちの生活を良くするための政策のはずが、いつの間にか「味方」か「敵」かを見分けるための道具になってしまうのです。


 

「決めつけ」がもたらす深刻な弊害

 

「自分の意見を持つのは当然だ」と思うかもしれません。しかし、他者を「間違い」と決めつける態度は、社会全体に深刻な弊害をもたらします。

  • 建設的な議論の消滅: 互いにレッテルを貼り合うだけでは、政策に関する前向きな議論は生まれません。異なる視点から意見を戦わせることで、より良い解決策が見つかる可能性を自ら閉ざしてしまいます。

  • 社会の分断: 「敵」と「味方」の溝が深まることで、社会の分断はますます深刻になります。本来は協力して解決すべき課題に対しても、政党間の対立が優先され、前に進まなくなってしまいます。

  • より良い政策選択の機会損失: どの政党にも、優れた政策もあれば、課題のある政策も存在するのが普通です。しかし、一つの政党を盲信するあまり、他の政党が提案する優れた政策の価値に気づく機会を失ってしまいます。


 

分断を乗り越えるために、私たちにできること

 

では、どうすればこの無意識の「決めつけ」から自由になれるのでしょうか。完全にバイアスをなくすことは難しいかもしれませんが、その影響を自覚し、減らす努力は可能です。

 

1. 自分の「当たり前」を疑ってみる

 

まずは、「自分の考えは、認知バイアスの影響を受けているかもしれない」と一度立ち止まってみることです。「どうして自分はこの政党を支持しているのだろう?」「反対意見のどこに違和感を覚えるのだろう?」と自問自答するだけでも、思考の偏りに気づくきっかけになります。

 

2. あえて「反対側」の情報に触れてみる

 

普段読んでいる新聞やニュースサイトとは論調の異なるメディアにも、意識的に目を通してみましょう。支持政党の異なる友人や家族がいれば、感情的にならずに「なぜそう思うのか」をじっくり聞いてみるのも良いでしょう。 大切なのは、相手を論破することではなく、「自分とは異なる視点が存在する」という事実を理解することです。

 

3. 「人」ではなく「政策」で判断する

 

「あの党首が嫌いだから」「あのタレントが応援しているから」といった、人物やイメージへの好き嫌いで判断するのではなく、一つひとつの政策の中身を比較検討する癖をつけましょう。

例えば、子育て支援策について考えるなら、各党が提案する具体的な給付額、保育所の増設目標、財源などを冷静に比較します。そうすれば、「この政策はB党の方が良いけれど、外交についてはC党の考えに賛成だ」といった、より多角的で柔軟な見方ができるようになるはずです。

 

4. 「100点満点の政党はない」と心得る

 

どの政党も、完璧ではありません。支持している政党であっても、全ての政策に賛成できるわけではないでしょう。逆に、支持していない政党の政策の中にも、一部共感できる部分があるかもしれません。

「全てが正しい政党も、全てが間違っている政党もない」という前提に立つことが、他者の意見に対する寛容さを生み、建設的な対話への扉を開きます。


 

まとめ:多様な意見こそが、社会を豊かにする

 

自分の支持政党を「間違い」と決めつけ、思考を停止させてしまうのは、非常にもったいないことです。それは、社会から多様な視点を奪い、より良い未来へ向かうための議論を妨げる行為に他なりません。

私たちの社会は、さまざまな価値観を持つ人々が集まって成り立っています。自分とは異なる意見にこそ、現状を打破するヒントや、思いもよらなかった解決策が隠されているかもしれません。

次に政治のニュースに触れるとき、SNSで異なる意見を目にしたとき。すぐに「間違いだ」と断じる前に、一呼吸おいてみませんか。その小さな一歩が、社会の分断を乗り越え、より豊かで健全な民主主義を育む力になるはずです。