【免疫の専門家が解説】ワクチンを打つと、他の病気にかかりやすくなるってホント?
新型コロナウイルスワクチンや、インフルエンザワクチンなど、私たちは様々なワクチンによって感染症から身を守っています。
そんな中、ふとこんな疑問を持ったことはありませんか?
「一つのワクチンを打って特定の抗体を作ると、その分、今まで持っていた他のウイルスへの抵抗力が弱まってしまうんじゃないだろうか?」
これは、ワクチンの安全性について考える上で、多くの方が気になるポイントだと思います。
今回はこの疑問について、免疫の基本的な仕組みから、分かりやすく解説していきます。
結論:心配は不要です!その理由とは?
まず結論からお伝えします。
特定のワクチンを接種したからといって、他のウイルスや細菌に対する免疫力が弱まる(抗体が減る)ことは、基本的にありません。
私たちの体に備わっている免疫システムは、私たちが想像するよりもはるかに高性能で、巨大なキャパシティを持っているからです。
人体の免疫は「超優秀なデータベース」
なぜ、他の免疫力が弱まらないと言えるのか。その理由を、免疫システムを**「指名手配犯のデータベース」**に例えて説明しましょう。
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ウイルスという「指名手配犯」の侵入 私たちの体にウイルスや細菌(抗原)が侵入してくると、免疫細胞が「未知の敵が来たぞ!」と認識します。
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「抗体」という手配書を作成 次に、B細胞という免疫細胞が、そのウイルスだけを捕まえることができる特殊な武器「抗体」を作り出します。これは、特定の指名手配犯(ウイルス)の顔写真が載った「手配書」のようなものです。
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データベースに情報を永久保存 そして最も重要なのが、一度作った手配書の情報を「記憶細胞(メモリーB細胞)」がデータベースに保存することです。これにより、次に同じ指名手配犯が侵入してきたとき、すぐに大量の手配書(抗体)を印刷して、迅速に犯人を捕まえることができるようになります。これが「免疫ができた」状態です。
新しい手配書を追加しても、古いデータは消えません
ワクチン接種は、この仕組みを利用したものです。毒性をなくしたり弱めたりしたウイルスの一部を体に入れることで、実際に感染することなく「指名手配犯のデータベース」に安全に新しい情報を追加する作業と言えます。
ここで重要なのは、このデータベースの容量がとてつもなく大きいということです。
新しい手配書(ワクチンで得た免疫)を追加したからといって、古い手配書(過去の感染や別のワクチンで得た免疫)のデータが削除されることはありません。私たちの免疫システムは、何十万、何百万種類もの手配情報を同時に管理できるほどの、驚異的なキャパシティを持っているのです。
むしろ免疫を鍛える?ワクチンの「意外な効果」
他の免疫が弱まるどころか、特定のワクチンが免疫システム全体によい影響を与える可能性を示唆する研究も進んでいます。
これを**「ワクチンの非特異的効果」**と呼びます。
例えば、結核を予防するBCGワクチンや、麻疹ワクチンを接種した子どもは、本来の目的である結核や麻疹だけでなく、他の様々な感染症による死亡率も低下することが報告されています。
これは、ワクチンが免疫システム全体の「トレーニング」のような役割を果たし、未知の敵に対しても、より効率的に戦えるように体を鍛えてくれる(訓練免疫)からではないか、と考えられています。
「同時接種」が安全なのも、同じ理由です
赤ちゃんは、生後2ヶ月から非常に多くの定期接種ワクチンを打ち始めます。中には、複数のワクチンを同じ日に接種する「同時接種」を行うこともあります。
「一度にたくさん打って、免疫が混乱しないの?」と心配になるかもしれませんが、これも全く問題ありません。それぞれのワクチンがそれぞれの「手配書」を作るだけで、互いに干渉したり、効果を弱め合ったりすることはないからです。むしろ、効率よく免疫をつけ、早く子どもを感染症から守ることができるという大きなメリットがあります。
まとめ
私たちの体は、日々、食事や呼吸を通して無数の抗原にさらされており、免疫システムは常にそれらを処理し続けています。ワクチンに含まれる抗原の量は、日常的に遭遇する抗原の量に比べれば、ごくわずかなものです。
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ワクチンで特定の抗体を作っても、他の免疫力は弱まらない。
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免疫システムのデータベースは非常に巨大で、複数の免疫を同時に記憶できる。
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むしろ、ワクチンが免疫全体をトレーニングする可能性も研究されている。
ワクチンは、人類が多くの危険な感染症を克服するために手に入れた、最も安全で効果的なツールの一つです。不確かな情報に惑わされず、正しい知識を持って、ご自身と大切な人の健康を守るための判断をしていきましょう。