【最新研究】発達障害の原因はウイルス?妊娠中の感染症と赤ちゃんの脳の発達
「発達障害は生まれつきの脳機能の偏りによるもの」――これは現在、広く知られている理解です。その原因の多くは遺伝的な要因にあると考えられていますが、一方で、様々な「環境要因」が複雑に絡み合って発症に影響することも分かってきました。
そして近年、その環境要因の中でも特に注目を集めているのが、**「妊娠中のウイルス感染」**です。
今回は、発達障害の原因解明の新たな鍵となるかもしれない、この説について最新の研究を交えながら、正確な情報を分かりやすくお伝えします。
「ウイルスが直接の原因」ではない?鍵は「母体の免疫反応」
まず、最も重要なポイントからお伝えします。この説は、「特定のウイルスが胎児の脳に直接感染して、発達障害を引き起こす」という単純な話ではありません。
鍵となるのは**「母体免疫活性化(Maternal Immune Activation, MIA)」**という現象です。
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お母さんがウイルスに感染 妊娠中のお母さんが、インフルエンザなどのウイルスに感染します。
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体内で「免疫システム」が作動 ウイルスを撃退するため、お母さんの体内で免疫細胞が活性化し、「サイトカイン」などの炎症を引き起こす物質が大量に作られます。これは体を守るための正常な反応です。
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免疫反応が胎児の脳に影響 このお母さんの体内で起きた強い免疫反応(炎症)が、胎盤を通じて胎児にまで影響を及ぼすことがあります。そして、繊細な発達の過程にある胎児の脳の神経回路の形成に、わずかな変化を与えてしまう可能性があるのです。
つまり、ウイルスそのものではなく、ウイルスと戦うために起きた「お母さんの免疫反応」が、結果として胎児の脳の発達に影響し、将来の発達障害のリスクを高める一因になるのではないか、と考えられているのです。
どんなウイルスが関係するの?
母体免疫活性化(MIA)を引き起こす可能性があるとして、これまでの研究で関連が指摘されているのは、特定の珍しいウイルスではありません。
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インフルエンザウイルス
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風疹ウイルス
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サイトメガロウイルス(CMV)
など、多くの人が遭遇する可能性のある感染症が研究の対象となっています。過去には、インフルエンザが世界的に大流行した後に、自閉スペクトラム症(ASD)と診断される人の出生率がわずかに上昇した、という大規模な調査報告もあります。
「遺伝」と「環境」の組み合わせ
「では、妊娠中に風邪をひいたら、必ず子どもが発達障害になるの?」と不安に思うかもしれませんが、答えは明確に「No」です。
最新の研究では、発達障害は「遺伝的要因」と「環境要因」がパズルのように組み合わさって発症すると考えられています。
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遺伝的要因:もともと持っている発達障害の「なりやすさ」
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環境要因:母体免疫活性化(MIA)のような、発症の引き金となりうる出来事
つまり、遺伝的な素因を持つ赤ちゃんが、胎内でMIAという環境要因にさらされた場合に、発症のリスクが少し高まるのではないか、というのが現在の科学的な見解です。ウイルス感染は、あくまで数あるリスク因子の一つに過ぎません。
この情報と、どう向き合うべきか
【重要】誰のせいでもありません
まず何よりも知っておいてほしいのは、発達障害は誰のせいでもないということです。妊娠中に感染症にかかることは、誰にでも起こりうることです。この情報をもって、母親自身を責めたり、誰かを非難したりすることは、絶対にあってはなりません。
【希望】将来の予防と対策へ
原因の解明が進むことは、大きな希望に繋がります。例えば、母体免疫活性化のメカニズムが完全に解明されれば、その影響を和らげる方法や、リスクを低減するための介入法が見つかるかもしれません。
【今できること】基本的な感染症対策の重要性
この研究は、妊娠を考えている方や妊娠中の方にとって、基本的な感染症対策がいかに重要かを改めて示唆しています。
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手洗い、うがいを徹底する
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人混みを避ける
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推奨されているワクチン(インフルエンザワクチンなど)を適切に接種する
これらの一般的な対策は、お母さん自身の健康を守るだけでなく、お腹の赤ちゃんの健やかな脳の発育環境を守ることにも繋がるのです。
まとめ
発達障害の原因をめぐる研究は、今この瞬間も世界中で進められています。「妊娠中のウイルス感染」という視点は、その複雑な発症メカニズムの謎を解き明かす、重要なピースの一つです。
大切なのは、断片的な情報に過度に不安になるのではなく、正確な知識を持つこと。そして、発達障害は「誰かのせい」ではなく、社会全体で理解し、サポートしていくべきものであるという視点を持ち続けることです。