「うちの親が…」では済まない。善意でデマを拡散する家族とどう向き合うか

 

「久しぶりに実家に帰ったら、温厚だった父が『あのニュースは闇の組織による陰謀だ』と熱っぽく語り出した」 「母が家族LINEに『これを飲むだけでガンが治る!』という怪しげな健康情報を、善意100%で次々とシェアしてくる」

ここ数年、こんな「あるある」話に、苦笑いでは済まない不安を感じている人は少なくないのではないでしょうか。

スマートフォンが普及し、これまでネットとは無縁だった私たちの親世代(40代、50代以上)が、YouTubeやSNSを使いこなすようになったこと自体は、素晴らしいことです。世界が広がり、生活が豊かになるはずでした。しかし、その先に、思わぬ落とし穴が待っていました。

それは、**陰謀論や誤情報(デマ)**という、甘く危険な罠です。これは、単に「うちの親は情報に疎いから」という個人の問題ではありません。急激なデジタル化が生んだ、社会全体の課題なのです。

 

なぜ、彼らは簡単に信じてしまうのか?

 

若い世代から見れば「どうしてこんな簡単な嘘に引っかかるの?」と不思議に思うかもしれません。しかし、彼らがハマってしまうのには、いくつかの構造的な理由があります。

 

1. 「活字=正しい」という刷り込み

 

彼らは、私たち「デジタルネイティブ」とは違う、**「デジタル移民」**の第一世代です。彼らが若かった頃、情報源はテレビ、新聞、雑誌、本といった、発信するまでに多くの人が介在し、一定の信頼性が担保されたメディアが中心でした。

そのため、ネット上に表示されるテキストや、もっともらしく編集された動画も、無意識に「活字」や「テレビ番組」と同じように信頼してしまう傾向があります。私たちには当たり前の「ネットの情報は玉石混交。まず疑ってかかる」という感覚が、残念ながら欠けていることが多いのです。

 

2. 親切すぎる「アルゴリズム」の罠

 

YouTubeやFacebookは、非常に賢いアルゴリズムを持っています。あなたが一度でも特定の動画や記事に興味を示すと、「あなたへのおすすめ」として、同種の情報を次から次へと差し出してくれます。

例えば、健康不安から何気なく「がん 治る 食べ物」と検索したとします。するとアルゴリズムは「この人は、標準治療以外の情報を探しているな」と判断し、次第に「ワクチンは危険」「大手製薬会社の陰謀」といった、より過激で刺激的な情報を推薦し始めます。

本人は自分で調べているつもりでも、気づかぬうちに**情報の偏った泡(フィルターバブル)の中に閉じ込められ、自分と同じ意見だけが反響する部屋(エコーチェンバー)**で、考えをどんどん先鋭化させてしまうのです。

 

3. 純粋な「善意」が仇になる

 

特に注意したいのが、彼らの多くが**「純粋な善意」**から情報を拡散しているという点です。「こんな素晴らしい情報、知らないなんてかわいそう」「家族や友人を危険から守ってあげたい」という、愛情や親切心が、結果としてデマの拡散に加担してしまっているのです。

家族LINEに送られてくる怪しげな健康情報は、彼らなりの愛情表現なのかもしれません。だからこそ、この問題は根が深いのです。

 

4. 不安と孤立感につけこむ「物語」

 

定年退職、子どもの独立、体の衰え…。年齢を重ねる中で、社会的な孤立や将来への不安は誰にでも訪れます。

陰謀論は、そんな不安な心にスッと入り込みます。複雑で理解しがたい世の中の出来事を、「すべては〇〇のせいだ」という**単純明快な善悪二元論の「物語」**で解説してくれるからです。それを信じることで、世界のすべてを理解できたような万能感が得られ、同じ「物語」を信じるSNS上の仲間と繋がることで、孤独感を癒してしまうのです。

 

家族として、絶対にやってはいけないこと・できること

 

では、自分の親や大切な人が陰謀論にハマってしまったら、どうすればいいのでしょうか。

【絶対にやってはいけないこと】頭ごなしの否定

「そんなの嘘に決まってる!」「なんでそんな馬鹿なこと信じるの?」と感情的に論破しようとするのは、最悪の対応です。相手はプライドを傷つけられ、心を閉ざしてしまいます。「自分を理解してくれないお前たちこそ、メディアに洗脳されているんだ!」と、さらに頑なになるだけです。

【私たちがやるべきこと】焦らず、対話の糸口を探る

  1. まずは共感と傾聴:「なぜ」に関心を示す 情報そのものではなく、なぜ相手がそれを信じるに至ったのか、その背景にある感情に寄り添いましょう。「そう思うようになったきっかけは何?」「その動画、どんな内容なの?一緒に見てみてもいい?」と、まずは関心を示し、相手の話をじっくり聞くことから始めます。信頼関係の再構築がすべてのスタートです。

  2. 事実を「そっと」提示する:戦うのではなく、選択肢を増やす 「でも、こういうデータもあるみたいだよ」「厚労省のサイトにはこう書いてあったよ」と、信頼できる情報源(公的機関、大手メディア、ファクトチェック機関など)を、「もう一つの情報」として提示します。「どっちが正しいか」の戦いに持ち込まず、相手の視野をそっと広げる手助けをするイメージです。

  3. リテラシーを一緒に育てる:「ネットの歩き方」を教える 「ネットの情報って、誰が発信してるか確認するのが大事らしいよ」「このサイト、広告がたくさんあって怪しくない?」など、情報源(ソース)を確認する習慣の重要性を、雑談の中で優しく伝えていきましょう。

 

おわりに

 

この問題は、彼らが悪いわけでは決してありません。デジタル化の激流に、十分な準備もないまま放り込まれてしまった「デジタル移民」世代の悲劇とも言えます。

彼らを「情報弱者」と切り捨てて見下すのではなく、先にデジタルの世界にいた私たちが、その世界の危険性や安全な歩き方を教える「水先案内人」になる必要があります。

それは、面倒で、根気のいる作業かもしれません。しかし、誤情報による家族の分断や、間違った健康法による命の危険を避けるためには、避けては通れない道です。この問題は、私たちに「家族との対話」の重要性を、改めて問いかけているのではないでしょうか。