「じゃんけんぽん!」はどこから来た?おなじみの遊びの意外な国際史

 

「最初はグー、じゃんけんぽん!」

この掛け声を知らない日本人はいないでしょう。子供の鬼ごっこの鬼決めから、アイドルのセンター決め、はたまたビジネスの重要な意思決定(?)まで。私たちの生活のあらゆる場面で、公平な決定方法として絶大な信頼を得ている「じゃんけん」。

多くの人が「日本古来の遊び」だと思っているかもしれませんが、実はそのルーツは海を越えた先にあり、長い年月をかけて日本で独自の進化を遂げた、壮大な歴史を持っているのです。

今回は、おなじみの「じゃんけん」がたどってきた、意外な旅路をご紹介します。

 

ルーツは日本じゃなかった!中国の「虫拳」

 

じゃんけんの原型とされる遊びが生まれたのは、17世紀ごろの中国(明の時代)だと言われています。その名も「虫拳(むしけん)」。

これは、3種類の虫の力関係を指で表現する三すくみの拳遊びでした。

  • ヘビ(小指)は カエル(人差し指)に勝つ

  • カエル(人差し指)は ナメクジ(親指)に勝つ

  • ナメクジ(親指)は ヘビ(小指)に勝つ

なんともユニークな力関係ですが、「ヘビはカエルを飲み込み、カエルはナメクジを食べ、ナメクジはヘビを溶かす(?)」という、当時の人々の自然観が反映されていたのかもしれません。この「3つの要素がじゃんけンのように三すくみの関係にある」という基本ルールが、日本に伝わってくることになります。

 

江戸時代、日本で花開いた「拳(けん)」文化

 

この中国の拳遊びが日本に伝わったのは江戸時代。国際貿易の窓口であった長崎を通じて持ち込まれたと言われています。そして、日本の宴席文化、お座敷遊びの中で、独自の発展を遂げていきました。

代表的なものが「狐拳(きつねけん)」です。

  • 猟師(両手で鉄砲を撃つポーズ)は に勝つ

  • (両手で狐の耳を作るポーズ)は 庄屋 に勝つ

  • 庄屋(両手をももに置く威厳あるポーズ)は 猟師 に勝つ

猟師は狐を撃ち、狐は庄屋を化かし、庄屋は猟師より身分が上、という三すくみです。両手を使うダイナミックな動きが、お座敷の場を大いに盛り上げたことでしょう。この他にも、指で示した数字の合計を当てる「本拳(ほんけん)」など、地域や時代によって様々な「拳」遊びが考案され、大人の社交の場で楽しまれていました。

 

ついに誕生!「グー・チョキ・パー」

 

複雑で地域差もあった「拳」遊びが、現在私たちが知るシンプルな形になったのは、明治時代のことでした。

これまでの大人のお座敷遊びが、子供たちの間で遊ばれるようになり、より分かりやすいルールへと洗練されていったのです。そして、ついにあの3つの形が発明されます。

  • 石(グー): ハサミ(チョキ)を砕く

  • 鋏(チョキ): 紙(パー)を切る

  • 紙(パー): 石(グー)を包む

この「石・紙・鋏」の組み合わせは、道具の力関係なので子供にも非常に分かりやすく、覚えやすいものでした。この画期的な発明により、「じゃんけん」は爆発的に全国の子供たちの間に広まり、国民的な遊びとしての地位を確立したのです。

 

「じゃんけんぽん」の謎めいた語源

 

では、あのリズミカルな「じゃんけんぽん」という掛け声はどこから来たのでしょうか?これには諸説あり、はっきりとした答えは出ていません。

  • 「両拳(りゃんけん)、ぽん!」説: 「両方の拳を出して、勝負!」という意味の言葉が訛ったという説。

  • 「石拳(いしけん)で、ぽん!」説: 「石拳で勝負だ!」という掛け声から来たという説。

  • 中国語由来説: じゃんけんの中国語「剪刀石頭布(ジェンダオ・シートウ・ブー)」のリズムが影響したという説。

どれが本当かは分かりませんが、この耳に残りやすく、勝負のタイミングを合わせやすい魔法の掛け声が、じゃんけんの普及に大きな役割を果たしたことは間違いありません。


中国の「虫」の力関係から始まった遊びが、日本の宴席で「狐」と「猟師」の戦いになり、やがて明治の子供たちの手によって「石・紙・鋏」へと姿を変える。私たちが何気なく繰り出す「じゃんけんぽん」の一手には、こんなにも壮大で国際的な歴史が詰まっています。

次にじゃんけんをする時は、ぜひこの物語に思いを馳せてみてください。目の前の相手との一手に、アジアを渡ってきた遊びの歴史の重みを感じられるかもしれませんよ。