お酒を飲むと犯罪者になる?データで解き明かすアルコールと犯罪の不都合な真実

 

「酒は百薬の長」とも言われ、適度な飲酒はコミュニケーションを円滑にし、人生に彩りを与えてくれます。しかしその一方で、お酒が引き金となった悲惨な事件やトラブルが後を絶たないのも事実です。

「お酒を飲む人」と「飲まない人」とでは、犯罪を犯す確率に違いはあるのでしょうか?

今回は、公的な統計データを基に、アルコールと犯罪の間に横たわる、決して無視できない関係性を分かりやすく解説します。

 

「飲酒者の犯罪率 vs 非飲酒者の犯罪率」直接比較は難しい

 

多くの方が最も知りたいであろう「お酒を飲む人の犯罪率」と「飲まない人の犯罪率」を直接的に比較した、決定的な公的データは、実は現在の日本には存在しません。

これは、全国民一人ひとりの飲酒習慣と犯罪歴を完全に紐づけて追跡調査することが極めて困難であるためです。

しかし、だからといって「関係ない」ということにはなりません。別の角度からデータを見ていくと、アルコールと犯罪の強い結びつきが浮かび上がってきます。

 

データが示す「飲酒」と「犯罪」の強い関連性

 

直接的な犯罪「率」の比較はできなくとも、以下のデータは飲酒が犯罪の引き金となり得る危険性を示唆しています。

 

証拠①:犯罪者の「犯行時飲酒率」は高い

 

過去の法務省『犯罪白書』のデータには、犯罪を犯して検挙された人が、犯行時にどのような状態だったかの調査があります。古いデータではありますが、傾向として非常に興味深い結果が示されています。

  • 傷害事件の検挙者のうち17〜26%が犯行時に酩酊状態

  • 暴行事件の検挙者のうち18〜28%が犯行時に酩酊状態

特に、カッとなって手が出るような暴力犯罪において、加害者が飲酒している割合が際立って高いことが分かります。また、法務省の別の研究では、刑務所にいる受刑者は一般の成人男性に比べて多量飲酒者の割合が高いことも報告されています。

 

証拠②:飲酒運転の死亡事故率は「7.4倍」

 

最も明確にリスクの高さを示すのが「飲酒運転」です。警察庁の統計(令和6年中)によると、飲酒運転による死亡事故率は、飲酒なしの場合と比較して約7.4倍にものぼります。

「自分は大丈夫」という根拠のない自信が、アルコールの影響でいかに危険な判断につながるかを示す、揺るぎない証拠と言えるでしょう。

 

証拠③:家庭内暴力(DV)や窃盗でも顕著な影響

 

アルコールの影響は、路上やハンドルを握っている時だけに限りません。

  • ある調査では、深刻なDV(家庭内暴力)の32%が飲酒時に発生しているという報告があります。

  • また、刑事処分を受けたDV事案の67.2%で、加害者が犯行時に飲酒していました。

  • さらに、50代男性の窃盗事案の23%に過度の飲酒が関連していたという犯罪白書の指摘もあり、万引きなどの背景にもアルコール問題が潜んでいるケースが少なくありません。

 

なぜアルコールは犯罪の引き金になるのか?

 

では、なぜアルコールを摂取すると、このような行動につながりやすくなるのでしょうか。

その鍵は、脳への影響にあります。アルコールは、理性や判断力、衝動のコントロールなどを司る脳の前頭葉の働きを麻痺させます。

普段なら「これはやってはいけない」「相手を傷つけてしまう」と理性のブレーキがかかる場面でも、アルコールの影響でそのブレーキが効かなくなり、攻撃的になったり、安易な行動に走ったりしてしまうのです。

 

まとめ:飲む人すべてが犯罪者ではない。しかしリスクは確実に高まる

 

本記事の結論として、「お酒を飲む人=犯罪者」と短絡的に結びつけることは、もちろん間違いです。多くの人は、節度を守って飲酒を楽しんでいます。

しかし、今回見てきた数々のデータは、「飲酒、特に過度の飲酒は、暴力や重大な事故につながるリスクを客観的に、そして確実に高める」という厳然たる事実を私たちに突きつけています。

お酒は、私たちの生活に潤いを与えてくれる一方で、一線を越えれば人生を破壊しかねない危険な側面も持っています。「自分は大丈夫」と過信せず、常に責任ある飲酒を心がけることが、自分自身、そして大切な周りの人々を守ることに繋がるのです。今一度、ご自身の飲酒習慣を見直すきっかけにしていただければ幸いです。