イラン・イスラエル戦争、背後にアメリカの影? なぜ「実現した」と言われるのか

長年の「影の戦争」を経て、イランとイスラエルが直接的な軍事攻撃を交わすという事態は、国際社会に大きな衝撃を与えました。両国の対立は歴史的に根深く、複雑な要因が絡み合っています。しかし、今回の直接衝突に至る道筋において、アメリカの外交政策が意図せずして「戦争への扉を開いてしまった」という見方が、専門家やメディアの間で語られています。

本記事では、なぜ「イラン・イスラエル戦争はアメリカによって実現してしまった」という声が上がるのか、その背景にある具体的な要因を掘り下げていきます。

ターニングポイント:イラン核合意からの離脱

多くの専門家が指摘する最大の要因は、2018年のトランプ前政権によるイラン核合意(JCPOA)からの離脱です。

  • 合意の意義: 2015年に締結されたこの合意は、イランが核兵器開発につながるウラン濃縮活動などを大幅に制限する見返りに、欧米などが科してきた経済制裁を解除するというものでした。これは、対話を通じてイランを国際社会に引き込み、地域の安定を図る試みでした。
  • 離脱の影響: アメリカの離脱と、それに続く「最大限の圧力」と呼ばれる厳しい経済制裁の再開は、イラン国内に大きな影響を与えました。
    • 穏健派の後退と強硬派の台頭: 核合意を主導したイランの穏健派は、経済的な見返りを得られなかったことで国民の支持を失い、代わりに反米・反イスラエルを掲げる強硬派が勢いを増しました。現在のライシ政権(2024年5月に大統領ヘリコプター墜落事故で死去)は、まさにその流れで誕生しました。
    • 経済的苦境と攻撃性の高まり: 制裁によって追い詰められたイランは、経済的な活路を見出すため、そして国内の不満を外に向けるために、より攻撃的な対外政策をとるようになったと分析されています。

核合意という「対話のテーブル」をアメリカ自らが壊したことが、イランを強硬な道へと追いやり、対立の激化を招いたという指摘です。

イランの孤立を深めた「アブラハム合意」

トランプ政権が推進したもう一つの主要な中東政策が、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)やバーレーンなどの**アラブ諸国との国交正常化、いわゆる「アブラハム合意」**です。

これは、長年「パレスチナ問題の解決なくしてイスラエルとの国交正常化なし」としてきたアラブ世界の原則を覆す画期的な出来事でした。しかし、この動きはイランの孤立感を深め、脅威認識を増大させる結果につながったと見られています。

  • 対イラン包囲網の形成: イランから見れば、アブラハム合意は「敵であるイスラエルと、これまで対立してきた湾岸アラブ諸国が手を組む、敵対的な包囲網」と映ります。
  • パレスチナ問題の軽視: この合意がパレスチナ問題を脇に置いたことで、イランは「パレスチナの擁護者」としての立場を強化し、ハマスやヒズボラといった代理勢力への支援を正当化する口実を得やすくなりました。

結果として、地域における「イスラエル・アラブ諸国 vs イラン・その代理勢力」という対立構造がより鮮明になり、緊張の火種を増やすことになったのです。

イスラエルへの「無条件の支持」が与えた影響

アメリカは長年にわたり、イスラエルに対して巨額の軍事支援を行い、国連安全保障理事会などで拒否権を行使してイスラエルを外交的に擁護してきました。この「無条件」とも言える強力な後ろ盾が、イスラエルの対外強硬策を助長したという見方は根強くあります。

  • 大胆な軍事行動の容認: イスラエルは、シリア領内にあるイラン関連施設への空爆などを繰り返してきました。2024年4月1日に発生した在シリア・イラン大使館領事部への空爆は、今回の直接衝突の引き金となりましたが、こうした行動の背景には「最終的にはアメリカが守ってくれる」という計算があったと指摘されています。
  • バイデン政権のジレンマ: バイデン政権は、イラン核合意への復帰を模索する一方で、イスラエルの安全保障へのコミットメントも維持しなければならないというジレンマを抱えていました。特にガザ紛争以降、イスラエルへの支持を続ける姿勢が、イランやその支持勢力を強く刺激したことは間違いありません。

アメリカの強力な支持が、イスラエルに「より大胆な行動」をとる余地を与え、結果的にイランとの衝突リスクを高めてしまったという側面は否定できないでしょう。

結論:意図せざる戦争への道

もちろん、戦争の直接的な責任は、攻撃を決定し実行したイランとイスラエルの当事国にあります。イラン自身の地域覇権への野心や、イスラエルの深刻な安全保障上の懸念も、紛争の根本的な原因です。

しかし、「アメリカが戦争を実現させた」という見方は、アメリカの一連の外交政策が紛争を抑止するどころか、むしろ当事国を刺激し、対立を煽り、最終的に軍事衝突が避けられない状況を作り出してしまったという批判的な分析に基づいています。

それは、アメリカが直接的に戦争を計画したという意味ではありません。しかし、核合意からの離脱、イランの孤立化、そしてイスラエルへの揺るぎない支援という一連の政策が、パズルのピースのようにはまり合い、意図せずして「戦争」という最悪の絵を完成させてしまった、と見ることもできるのです。

中東におけるアメリカの今後の政策、特に対話のチャンネルを再構築し、地域の全ての当事国の安全保障上の懸念に対処できるような、よりバランスの取れた外交努力が、これ以上の事態悪化を防ぐ鍵となるでしょう。