低身長の定義とは?医学的・数学的な定義と理解のポイント

「うちの子、周りの子より小さいかも…」 「自分は低身長なのだろうか?」

身長に関する悩みは、多くの方が一度は抱えるものです。しかし、「低身長」とは一体どのような状態を指すのでしょうか?単に「背が低い」という主観的な印象だけでなく、医学的にはより客観的な基準が存在します。

この記事では、低身長の定義について、統計学的な視点も交えながら、理論的かつ数学的に解説します。

1. 「低い」を客観的に捉える:SDスコアという指標

低身長を医学的に判断する際に最も重要な指標となるのが**SDスコア(標準偏差スコア)**です。

SDスコアとは、集団の中で個人の測定値が平均からどの程度離れているかを示す値です。身長の場合、同年齢・同性別の子どもたちの平均身長から、どの程度高いか、あるいは低いかを標準偏差を単位として表します。

SDスコアの計算式:

SDスコア =同年齢・同性別の標準偏差(測定した身長−同年齢・同性別の平均身長)​

  • 平均身長: ある年齢・性別の集団の身長の平均値です。
  • 標準偏差(SD): 集団内のデータのばらつき具合を示す指標です。標準偏差が大きいほど、データのばらつきが大きいことを意味します。

例えば、ある年齢・性別の平均身長が100cm、標準偏差が5cmだったとします。このとき、身長が90cmの子どものSDスコアは、

SDスコア=5cm(90cm−100cm)​=−2.0SD

となります。

なぜSDスコアを用いるのか?

子どもの身長は、年齢や性別によって大きく異なります。例えば、5歳男児の「低い」と10歳男児の「低い」では、実際の身長値は全く違います。SDスコアを用いることで、これらの年齢や性別の違いを考慮した上で、客観的に身長を評価することが可能になります。

2. 医学的な低身長の基準:「-2SD以下」

一般的に、医学的な低身長の基準は SDスコアが-2.0SD以下 とされています。

これは統計学的に見て、同年齢・同性別の子どもたちの中で、身長が低い方から約2.3% に相当します。

正規分布(釣鐘型をした左右対称の分布で、平均値付近にデータが集中し、平均値から離れるほどデータ数が少なくなる分布)を仮定すると、

  • 平均値 ±1SDの範囲に約68.3%の人が含まれます。
  • 平均値 ±2SDの範囲に約95.4%の人が含まれます。

つまり、-2SD以下というのは、下から数えて約2.3%の少数派にあたるということです。(正確には、全体の約95.4%が±2SDの範囲に入るため、それ以外の約4.6%が±2SDの外側におり、そのうちの半分が-2SD以下となります。)

この-2SDという基準は、日本の学校保健統計調査における成長曲線(パーセンタイル曲線)でも用いられています。成長曲線は、多くの子どもの身長や体重のデータを集めて作られたもので、子どもの成長を経時的に評価する際に役立ちます。多くの成長曲線には、平均値の他に、+1SD、+2SD、-1SD、-2SDなどのラインが引かれており、子どもの身長がどの範囲に位置するかを視覚的に確認できます。

3. 低身長を考える上での注意点

SDスコアが-2SD以下であっても、必ずしも病的な原因があるとは限りません。低身長を考える際には、以下の点も考慮する必要があります。

3.1. 成長のパターン

  • 体質性思春期遅発症(晩熟型): 思春期の訪れが平均よりも遅いために一時的に身長が低い状態ですが、最終的には平均的な身長に追いつくことが多いタイプです。「おくて」とも呼ばれます。
  • 家族性低身長: ご両親や近親者の身長が低い場合、遺伝的な影響で身長が低いことがあります。この場合、成長のパターン自体は正常であることが多いです。
  • SGA性低身長症: 出生時に身長や体重が在胎週数に対して標準より小さかった(SGA:Small for Gestational Age)子どもが、その後も身長が追いつかず低身長の状態が続く場合です。

3.2. 遺伝的要因とターゲットハイト

子どもの最終的な身長は、遺伝的な要因も大きく関わってきます。両親の身長から、子どものおおよその最終身長を予測する方法として「ターゲットハイト(目標身長)」があります。

ターゲットハイトの計算式(目安):

  • 男の子の場合: ターゲットハイト=2(父親の身長+母親の身長+13cm)​
  • 女の子の場合: ターゲットハイト=2(父親の身長+母親の身長−13cm)​

この計算式はあくまで目安であり、±8~9cm程度の幅があると考えられています。

3.3. 病的な原因による低身長

以下のような病気が原因で低身長が引き起こされることもあります。この場合は、適切な医学的介入が必要となることがあります。

  • 成長ホルモン分泌不全性低身長症: 脳下垂体から分泌される成長ホルモンの量が不足している状態です。
  • 甲状腺機能低下症: 甲状腺ホルモンの分泌が不足し、成長や発達に影響を及ぼします。
  • ターナー症候群: 女児に見られる染色体異常の一つで、低身長が特徴的な症状の一つです。
  • 軟骨異栄養症(骨系統疾患): 骨や軟骨の成長に異常があり、低身長をきたす疾患群です。
  • 慢性疾患や栄養不良: 長期にわたる心臓疾患、腎臓疾患、消化器疾患、あるいは極端な栄養不足なども成長に影響を与えることがあります。

4. 「低身長かも?」と思ったら

もし、お子さんの身長が気になる場合や、ご自身の身長について専門的なアドバイスが欲しい場合は、以下の対応をおすすめします。

  1. 成長曲線の記録: 母子健康手帳や学校での身体測定の結果などを利用して、成長曲線を記録してみましょう。身長の伸びが-2SDのラインを下回っているか、あるいはSDスコアが徐々に低下している(成長の速度が鈍化している)場合は、注意が必要です。
  2. 専門医への相談: まずはかかりつけの小児科医に相談しましょう。必要に応じて、低身長を専門とする小児内分泌科医を紹介してもらえることもあります。医師は、これまでの成長記録、家族歴、診察、必要に応じて血液検査やレントゲン検査などを行い、低身長の原因を調べます。

5. まとめ

低身長の医学的な定義は、主にSDスコアが-2.0SD以下であることを指します。これは統計学的に見て、同年齢・同性別の子どもの中で身長が低い方から約2.3%に該当します。

しかし、この基準に当てはまるからといって、直ちに「異常」というわけではありません。体質的なものや遺伝的な背景が影響している場合もあれば、治療が必要な病気が隠れている可能性もあります。

大切なのは、客観的なデータに基づいて現状を把握し、不安な点があれば専門家の意見を聞くことです。この記事が、低身長についての正しい理解の一助となれば幸いです。