どうしてニートがダメなのか?ニート当事者にもわかる解説
あなたは今、「ニート」と呼ばれる状態にあるかもしれません。あるいは、そうなりかけているかもしれません。「ニートはダメだ」という声をよく耳にするけれど、具体的に何がダメなのか、なぜ問題視されるのか、本当のところはよくわからない…そう感じていませんか?
この記事では、ニートがなぜ社会的に問題視されるのか、そしてニート状態が当事者自身にどのような影響を与えるのかについて、批判や非難ではなく、客観的な事実と現実に基づいて解説します。
ニート当事者の多くは、自分の状況に対して「後ろめたさ」や「不安」を感じています。厚生労働省の調査によれば、ニート状態にある若者の約80%が「仕事をしていないとうしろめたい」と感じているのです。この記事を読むことで、あなたがなぜそのような感情を抱くのか、そしてどうすれば現状を変えられるのかについての理解が深まるでしょう。
批判や説教ではなく、あなた自身が自分の状況を客観的に理解し、もし望むなら一歩を踏み出すための情報を提供することが、この記事の目的です。一緒に、ニートという状態について考えていきましょう。
ニートの定義と現状
ニートとは何か?
「ニート」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。しかし、その正確な定義を知っている人は意外と少ないかもしれません。ニート(NEET)とは「Not in Education, Employment or Training」の頭文字をとった言葉で、「教育を受けておらず、就労しておらず、職業訓練も受けていない」状態の人を指します。
日本では、厚生労働省の定義によると、ニートは「15~34歳で就労・家事・通学をしていない人」とされています。この定義は、イギリスで生まれた概念を日本の状況に合わせて調整したものです。
ニートと似た言葉に「若年無業者」や「失業者」がありますが、それぞれ意味が異なります。失業者は「現在仕事をしていないが、働く意思があり、積極的に職を探している人」を指し、年齢を問いません。若年無業者は「15歳から34歳の間で、就業せず、学校にも通っていない人々」を指し、求職中である人も含まれます。つまり、若年無業者という広い概念の中に、働く意思がないニートが含まれるという関係性です。
また、ニートと引きこもりも異なる概念です。引きこもりは「就学・就労・家庭外での交遊をもたず、6ヶ月以上家庭に留まり続けている状態」と定義されています。ニートは必ずしも社会との関わりを遮断しているわけではなく、外出や友人との交流を持っている場合もあります。
日本におけるニートの現状
総務省統計局の「労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の概要」によると、日本におけるニート人口は2023年時点で59万人、各年齢階級における若年無業者の人口に占める割合は2.4%です。この数字は過去10年間でほぼ横ばいで推移しており、2020年のコロナ禍で一時的に増加した以外は、大きな変動はありません。
年齢別に見ると、15歳~24歳のニートの割合は2.2%であるのに対し、25歳~34歳は2.6%と若干高くなっています。また、35歳~44歳の中年層のニートも37万人(2.5%)存在しており、ニート問題は若年層だけの問題ではなくなってきています。
学歴別に見ると、ニートの最終学歴は高卒が57.2%と最も多く、次いで中卒(18.1%)、大学・大学院卒(13.2%)、短大・専門学校卒(10.9%)となっています。高卒者が多い理由としては、「高卒で就職したが早期離職した」「学歴がないため就職が困難」「大学や専門学校などを中退後高卒扱いになりそのままニートになった」などが考えられます。
このように、ニートは特定の層に限定された問題ではなく、様々な背景を持つ人々が該当する可能性があることがわかります。
社会から見たニートの問題点
ニート状態が社会的に問題視される理由について、客観的な視点から考えてみましょう。これは単にニート当事者を批判するためではなく、社会全体の仕組みの中でなぜニートが課題とされるのかを理解するためです。
労働人口の減少による経済的影響
日本は少子高齢化が急速に進んでいる国です。総務省統計局の調査によると、2023年のニート人口は59万人、35歳~44歳の中年層のニートも37万人存在しています。合計すると約100万人近くの労働可能な人材が労働市場に参加していないことになります。
この状況は、国全体の経済活動に影響を与えます。労働人口が減少すると、国民総生産(GDP)が減少する可能性があります。生産活動に参加する人が少なくなれば、国全体の経済規模は縮小し、経済成長が鈍化する恐れがあるのです。
また、労働力不足は企業の人材確保を困難にし、産業の競争力低下や生産性の低下につながる可能性もあります。特に日本のように高齢化が進む社会では、若い世代の労働参加率が経済の持続可能性に大きく影響します。
社会保障制度への負担
日本の社会保障制度は、働く世代が納める税金や社会保険料によって支えられています。ニートが増加すると、税収や社会保険料の納付者が減少し、社会保障制度の財政基盤が弱まる可能性があります。
特に年金制度は現役世代が高齢者を支える「世代間扶養」の仕組みで成り立っています。労働人口の減少は、将来の年金受給者を支える負担が現役世代に重くのしかかることを意味します。
また、ニート状態が長期化し、経済的に自立できない状態が続くと、生活保護などの社会保障給付に頼らざるを得なくなるケースも増えます。これは社会全体の負担増加につながります。
人材育成と社会の活力低下
ニート状態にある若者は、就労経験を通じて得られる技能や知識の習得機会を逃しています。特に若いうちの就労経験は、その後のキャリア形成に大きな影響を与えます。
労働政策研究・研修機構の調査によれば、ニート期間が長くなるほど、就労への移行が難しくなる傾向があります。これは個人のスキル形成だけでなく、社会全体の人材育成にも影響を与えます。
また、多くの若者が社会参加していない状態は、社会全体の活力低下にもつながります。新しいアイデアや価値観が生まれにくくなり、社会の革新性や創造性が損なわれる可能性があるのです。
世代間の不公平感
ニート問題は世代間の不公平感を生み出す要因にもなります。働く世代が、働いていない人々を経済的に支える構図は、時に社会的な軋轢を生み出します。
特に、自分自身も経済的に苦しい状況にある労働者にとって、「働かない人を自分たちの税金で支えている」という感覚は、社会的な分断を深める恐れがあります。
このような社会的な問題は、単にニート個人の責任ではなく、雇用環境や教育制度、社会保障制度など、社会全体の仕組みに関わる複合的な課題です。しかし、社会全体の持続可能性を考えると、できるだけ多くの人が何らかの形で社会参加することが望ましいとされるのです。
ニート当事者から見た問題点
ニート状態は社会全体に影響を与えるだけでなく、当事者自身にも様々な問題をもたらします。ここでは、ニート当事者の視点から、なぜニート状態が問題となるのかを考えてみましょう。
経済的自立の困難さ
最も直接的な問題は、経済的な自立が難しくなることです。収入がなければ、生活費や住居費、食費などの基本的な生活コストを自分で賄うことができません。多くのニートは親や家族に経済的に依存している状態にあります。
厚生労働省の調査によると、ニートの状態にある若者の出身家庭は「ふつう」が47.1%と最も多く、「やや苦しい」が28.0%、「非常に苦しい」が8.9%となっています。つまり、約4割のニートは経済的に余裕のない家庭出身であり、家族への経済的負担が大きくなっています。
また、親に依存している状態が長期化すると、親の高齢化や退職に伴い、経済的基盤が崩れるリスクも高まります。親が定年退職したり、病気になったりした場合、それまでの生活を維持することが難しくなるでしょう。
精神的負担と自己評価の低下
ニート状態にあることは、多くの場合、精神的な負担をもたらします。厚生労働省の調査によれば、ニート状態にある若者の82.8%が「仕事をしていないとうしろめたい」と感じており、「世間体が悪い」と感じている人も多くいます。
社会的な期待や規範から外れていることへの罪悪感や後ろめたさは、自己評価の低下につながります。「自分はダメな人間だ」「社会の役に立っていない」という否定的な自己イメージが形成されやすくなるのです。
また、ニート状態にある若者は、新入社員と比較して「自分はいい時代に生まれた」「世の中は、いろいろな面で今よりもよくなっていくだろう」「明るい気持で積極的に行動すれば、たいていのことは達成できる」といった項目で肯定的な回答が少なく、将来に対して悲観的な見方をしている傾向があります。
社会的スキルの未発達・喪失
就労や学校教育は、対人関係やコミュニケーション能力、時間管理能力など、社会生活に必要な様々なスキルを身につける機会でもあります。ニート状態が長期化すると、これらの社会的スキルを習得する機会が失われ、または既に身についていたスキルが衰えてしまう可能性があります。
厚生労働省の調査では、ニート状態にある若者の64.4%が「人に話すのが不得意」と回答しており、「面接に通る」(75.1%)、「面接で質問に答える」(64.8%)、「職場で友達をつくる」(64.6%)、「上司から信頼される」(64.1%)といった項目に苦手意識を持っていることがわかっています。
これらのコミュニケーションの苦手意識は、就労を困難にするだけでなく、日常生活における人間関係の構築にも影響を与えます。
時間の経過とともに高まる就労の壁
ニート状態が長期化するほど、就労への移行が難しくなる傾向があります。これには複数の理由があります。
まず、就労経験の不足は履歴書上の「空白期間」となり、採用時に不利に働く可能性があります。多くの企業は、応募者の職歴や経験を重視します。
また、年齢が上がるにつれて、新卒や若年層向けの求人や支援制度を利用できなくなります。若者向けの就労支援は充実していますが、年齢制限があるものも多いのです。
さらに、長期間のニート状態は、上述した社会的スキルの低下や自己評価の低下を招き、就職活動自体に踏み出すハードルを高くしてしまいます。
将来への不安と展望の欠如
ニート状態にある若者の多くは、将来に対する不安を抱えています。「このまま何も変わらないのではないか」「将来どうなるのだろう」という漠然とした不安は、現状を変えるための行動を起こすエネルギーを奪ってしまうことがあります。
明確な目標や展望がないまま時間が過ぎていくことで、人生の満足度や充実感が得られにくくなります。何かを成し遂げる喜びや、成長を実感する機会が少なくなるのです。
これらの問題は、ニート当事者の生活の質や幸福度に直接影響を与えます。しかし、これらの問題を認識することは、現状を変えるための第一歩でもあります。自分自身の状況を客観的に理解することで、改善のための行動を起こす動機づけになるのです。
ニート状態から抜け出すための具体的方法
ニート状態の問題点について理解したところで、次は具体的にどうすれば現状を変えられるのかを考えてみましょう。ここでは、ニート状態から抜け出すための実践的な方法を紹介します。一度にすべてを変えようとする必要はありません。小さな一歩から始めることが大切です。
生活リズムの改善から始める
多くの企業では、午前中から仕事が始まります。昼夜逆転の生活を送っているニートの方は、まずは生活リズムを整えることから始めましょう。
具体的には:
- 毎日同じ時間に起床し、同じ時間に就寝する習慣をつける
- 朝日を浴びて体内時計をリセットする
- 夜は早めに電子機器の使用を控え、睡眠の質を高める
- 三食規則正しく食事をとる
生活リズムが整うと、体調が改善され、精神的にも安定します。これは次のステップに進むための基盤となります。
外出機会を増やす
ニート状態が長期化すると、外出する機会が減り、家に閉じこもりがちになることがあります。社会復帰の第一歩として、まずは外の世界と接点を持つことが大切です。
具体的には:
- 毎日短時間でも外出する習慣をつける(近所の公園を散歩するだけでも効果的)
- 図書館や公共施設など、人がいる場所に足を運ぶ
- 買い物や用事を自分で済ませる機会を増やす
- 自然の中で過ごす時間を作る(自然環境はストレス軽減に効果的)
外出することで、社会との接点が生まれ、人と関わる機会も増えていきます。また、外の世界の刺激は、新しい考えや可能性に気づくきっかけにもなります。
段階的な社会参加
いきなり正社員として就職するのはハードルが高いと感じる場合は、段階的に社会参加していく方法もあります。
具体的には:
- ボランティア活動に参加する(社会貢献しながら、人との関わりを増やせる)
- 短時間のアルバイトから始める(週1日、1日2時間など、自分のペースで)
- 趣味のサークルやコミュニティに参加する
- オンラインでの仕事(クラウドソーシングなど)を試してみる
これらの活動は、就労経験として履歴書に書けるだけでなく、自信をつけるためにも役立ちます。小さな成功体験の積み重ねが、次のステップへの原動力になります。
専門的支援の活用
ニート状態から抜け出すためには、専門的な支援を活用することも効果的です。日本には若者の就労を支援するための様々な制度やサービスがあります。
具体的には:
- 地域若者サポートステーション(通称「サポステ」):厚生労働省が設置する若者の就労支援機関
- ハローワーク:職業紹介や職業訓練の情報提供
- 若者自立塾:合宿形式で生活訓練と就労支援を行う施設
- 民間の就労支援エージェント:ニートや既卒者向けの就職支援サービス
これらの支援機関では、カウンセリングや職業適性診断、履歴書の書き方指導、面接対策など、就職活動に必要なサポートを受けることができます。一人で悩まず、専門家の力を借りることで、効率的に就労への道を切り開くことができるでしょう。
小さな成功体験の積み重ね
ニート状態から抜け出す過程では、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。大きな目標を一度に達成しようとするのではなく、達成可能な小さな目標を設定し、一つずつクリアしていきましょう。
具体的には:
- 今日の目標を明確にする(例:30分散歩する、1つの求人に応募するなど)
- 達成した目標を記録する
- 自分の成長や変化を定期的に振り返る
- 小さな成功を自分自身で認め、褒める習慣をつける
小さな成功体験は自己効力感(自分にはできるという感覚)を高め、次の行動への動機づけになります。一歩一歩着実に進むことで、大きな変化につながっていくのです。
心身の健康管理
ニート状態から抜け出すためには、心身の健康を整えることも重要です。特に精神的な問題を抱えている場合は、専門家のサポートを受けることをためらわないでください。
具体的には:
- 適度な運動を取り入れる(ウォーキングやストレッチなど)
- バランスの取れた食事を心がける
- 十分な睡眠をとる
- 必要に応じて、心療内科や精神科などの専門機関を利用する
- ストレス管理の方法(深呼吸、瞑想など)を学ぶ
心身の健康は、社会復帰の基盤となります。自分自身を大切にすることから始めましょう。
ニート状態から抜け出すプロセスは、人それぞれ異なります。自分のペースで、無理のない範囲で取り組むことが大切です。一歩踏み出す勇気があれば、必ず道は開けていきます。
まとめ:ニート状態は変えられる
ここまで、ニートの定義や現状、社会的・個人的な問題点、そして抜け出すための方法について見てきました。最後に、この記事の内容をまとめ、前向きなメッセージをお伝えしたいと思います。
ニート状態は一時的なもの
まず強調したいのは、ニート状態は固定的なものではなく、一時的な状態だということです。厚生労働省の調査によれば、適切な支援を受けたニートの約43.5%が訓練期間内に就労を達成しています。つまり、変化は可能なのです。
ニート状態にある理由は人それぞれです。学校でのいじめ経験、就労時のトラウマ、コミュニケーションの苦手意識、精神的な問題など、様々な背景があります。しかし、どのような理由であれ、現状を変える可能性は常に開かれています。
小さな一歩が大きな変化を生む
ニート状態から抜け出すためには、一度にすべてを変えようとするのではなく、小さな一歩から始めることが大切です。生活リズムを整える、短時間の外出を習慣にする、趣味や興味のあることから社会との接点を持つなど、できることから少しずつ始めましょう。
小さな成功体験の積み重ねが自信につながり、次の一歩を踏み出す勇気を与えてくれます。焦らず、自分のペースで進むことが長期的な成功への鍵です。
支援を求めることは弱さではない
一人で悩み、苦しむ必要はありません。日本には若者の就労を支援するための様々な制度やサービスがあります。地域若者サポートステーション(サポステ)、ハローワーク、若者自立塾、民間の就労支援エージェントなど、専門的な支援を活用することで、効率的に就労への道を切り開くことができます。
支援を求めることは弱さの表れではなく、自分自身の未来のために行動する強さの表れです。勇気を出して、一歩踏み出してみましょう。
あなたの価値は就労状況で決まるものではない
最後に、最も大切なことをお伝えします。あなたの価値や存在意義は、就労しているかどうかだけで決まるものではありません。
確かに、社会的な視点からは労働参加が重要視されますし、経済的自立は生活の安定のために必要です。しかし、人間の価値はそれだけで測れるものではありません。
あなたには、あなたにしかない個性や才能、可能性があります。今はそれが眠っているだけかもしれません。自分自身を責めるのではなく、自分の可能性を信じて、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
この記事が、ニート状態にある方々にとって、自分自身を見つめ直し、新たな一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。変化は可能です。そして、その第一歩を踏み出すのは、今日かもしれません。
参考文献
- 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の概要」
- 厚生労働省「ニートの状態にある若年者の実態および支援策に関する調査研究」
- 労働政策研究・研修機構「非求職無業者(ニート)の経歴と意識、世帯の状況」
- 厚生労働省「よくあるご質問について その他」
- 厚生労働省「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」