❖立ち遅れている日本のトランス脂肪酸への対策

トランス脂肪酸は、昔ながらの低温圧搾方法でつくられた天然の植物油にはほとんど含まれない物質です。トランス脂肪酸は工業的に精製・加工するときに産生する物質で、大量生産を必要とする多くの植物油がこうした製法に頼っています。


また、水素を添加して製造する過程で発生し、マーガリンやファットスプレッド、
ショートニングなどにはかなりの量が含まれています。これらを用いてつくられる
スナック類やお菓子などにもたっぷり含まれていることになります。残念ながら、工業的に健康で安全な製品をつくる完全な技術は現段階では存在しません。ですが――、


①植物油の組成を変えてトランス脂肪酸の産生量を削減する(遺伝子組み換え技術により原料植物の組成を変える)


②パーム油などの飽和脂肪酸を使用し、エステル化などの技術を用いてマーガリンやショートニングのような加工油を製造するといった方法が開発されています。


①の遺伝子組み換え原料を用いる方法では、残念ながらトランス脂肪酸を「ゼロ」にすることはできません。しかし、かなり少なくすることが可能となっており、こ
のような技術的な背景があることから、このたびのFDA の発表に至ったのだろうと考えています。


また、②のパーム油などの飽和脂肪酸を原料とする方法では、トランス脂肪酸を「ゼロ」にすることはできるのですが、今度は「エコナ」で有名になった発がん性が危惧される「グリシドール脂肪酸エステル」の問題を抱えることになります。


ちなみに、「特保」に認定されていた「エコナ」は、トランス脂肪酸グリシドール脂肪酸エステルの両方の問題を抱えた植物油だったということをご存知の方はほとんどいないのではないでしょうか。

 

これほど危険な食用油に対し、国がお墨付きを与えていたわけです。「エコナ」の事例は、日本人のトランス脂肪酸への問題意識がいかに低いかということを象徴する出来事だったと思います。

そして残念なことに――食料品店に行けばいまもなお、トランス脂肪酸を多く含む多種多様な食用油やマーガリンなどがずらりと並んでいる状況に変わりはありません。多くの日本人が何の疑問も抱かずにこうした食品を利用しているのです。

明日は気になる病気との関係についてのお話をします。