主婦 《奥さん二人アカすりに行く ~心乱れて~》 | アホいうやつがアホじゃ

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奥さん二人アカすりに行く ~心乱れて~










 あら、いやだ。伊勢崎町4丁目で暴力団組長撃たれ死亡。昨日あたし達が人生の垢を落としに行ってきたのは確か5丁目。


 最初は良かったのよ。ここがブルースの伊勢崎町ねえ。あたし達はすくなくともあんたよりは垢が少ないようにって、だってのび太の鼻くそ位でるのよって聞いてたから、朝8時に早起きして、徹底的に体をこすってきた。出家したくなるほど丁寧にムダ毛も剃ってきた。順風満帆、前途洋々、完全無欠の状態でブルースの町脚を踏み入れたのよ。ハセる(ハヤルとアセル)気持ちは足取りを軽くし、いつもより声もおっきいわ。ただ、進めば進むほど笑ってる口が小さくなって、見えてる歯の本数が少なくなって、お互いの肘が触れ合ってないと不安になってきた。日本人の姿が見えなくなって、ハングル語だらけになって、いかがわしい看板の写真のお姉さんは私にそっくしで、前から来る女の人はみんなブラジャーのひもが見えてる。でも、もう引き返せないの。だって垢すりの割引券を持ってるんだもの。あたし達はよくよく小さな地図をみたわ。それはモーレツしごき教室の寛平ちゃんの切り絵ぐらいたよりなくて、情報の意味なんてなかったけど、奇跡的に目的のビルを探し当てたわ。入口にハエがたかってるのにそのビルはその界隈では立派に映った。もう通常の価値基準では物事を計れないのね。まあ確かに大げさなんだけど。非常に弱い威圧感を感じさせる(ボロくて狭いということ)エレベーターの、幼児の爪みたいに薄っぺらいボタンを押す。「いらっしゃいませ。ご予約の方でしょうか?」おっ、名札も言葉も滑舌もなめらかじゃあないか。いやあ、久しぶりに日本人に会えたよ。横井庄一の思いにひたりつつ、でもあたし一人緊張がとれない。だって、靴を脱がずにじゅうたんにあがっちゃって、さっきもらった番号札なくしちゃって、はおったバスローブのひもが後ろにぶら下がってるのに、ないよないよと騒いで。眼鏡を探す波平さん以下になってしまった自分の小ささに気を沈める暇もなく、なんやら緑色の臭いのするフロ場に案内される。いやあ、裸よーっ。裸で入って下さいだって。キャー見ないでねっ、見ないでねっ、私、産後みたいなお腹だし、臨月みたいなお尻なの。上から、86、58、90、キャーっうそよー!こういう時って悲しいけど、ハシャいでる方が絶対デブなのよね。


 入ってみると、なんだフツーの温泉じゃない。緑色の臭いがしたのはキュウリの湯ね。「はいっ、じゃあ体を温めるためにサウナに30分入って貰います。」うわあ久しぶりー。おえーっ熱いぞ。苦しいぞ。湿っけとるぞ。バカにしとんのかー。10分でフラフラになってほふく前進でなんとか脱出。ぬるめのシャワーで生き返る。「おふたりさん、どぞー。」どこから聞こえるの、インチキな日本語。ねえ、だって垢すりったってほら、エステみたいに個室のベッドで厚化粧のお姉さんと自分の体のこと相談しながら…。「ここねるよ。しんぱいないよ。きょうアカすり?エヤァ、ハムソンサリムニダー。」なんやて、なんやて。それにどうしておばさん下着なの?なんどフロ場の中なの?なんで下タイルのフロ場に死体置場みたいにビニールのベッドが並んでるの?どうしてあたし達裸ひとつで韓国人に身を任せてるの?ああ、垢すりに来たんだったわね。自分を納得させるのに時間がかかったわ。斜め前にライバルだったあのこがねてる。もうライバルじゃなくて同志ね。ハハハハ。「しごとなに。きょうおやすみ?」なんでもいいじゃないよ!お願いだから内太ももきつく大きくこすらないでよ。あたし思春期だったら今日泣き寝入りだわ。


 本当に言葉どうり上から下までみっちりこすられたわ。あのおばさん達はあたし達のお母さんより、いえ、へたしたら旦那よりあたし達の事知ってしまったのね。のび太の鼻くそなんて誰が言ったのよ。ちゃんと洗って行ったおかげで、アレッ?洗って行ったのにジャイアンほどでるじゃないの。収穫があったのか、ただの幻想なのか、とにかく隠しカメラがない事を祈りつつあたし達は店を後にした。「またきてよここ。まてるよ。」次の日あたし、全身に湿疹がでた。

おわり