4月18日
「社長、今日はお疲れさまでしたあ。優勝カップずっしり重いでしょう」
「肩にくるねえぇ。奥さん、あそこの昼食はどうでした?」
「あのね、もうね、すごくね、おいしくてね、私ね、ホッペタがね、落ちちゃったの。」
「いやあ、息子さんも受験ですかあ。」
「社長、いい具合に日に焼けてらっしゃる。」
中年グループにつきものの、ちぐはぐな会話にまみれて新幹線で大阪から東京へと家路に急ぐ。
高度の集中力をもって村上龍の「五分後の世界」の文字を追うが、ギトギトのおやじさんは挙句の果てに写るンですまで持ちだした。皆に気づかれないようにちいさくピイスしてると「立派なもんやねえ、いやあ、たいしたもんよう。」とさっきまで白内障や緑内障の話で盛り上がってた後ろのおばあちゃんが小さく叫ぶ。窓に目を移すと、エラソーにフジヤマハラキリニッポンジンニッポンジン。何だか不自然な山だなあ。あと一時間、後ろのおばあちゃんは次々に恐ろしい難病を取り上げては燃えている。ひとの病気で自分の健康を確認してるようだ。
4月19日
「行ってらっしゃい」ベランダから手を振る私。カーラーにスリップ一枚。ご近所のみなさん、私が新妻です。さあ、さ、あたしゃあここからが本領発揮なのよ。第2次睡爆タイムに突入だ。世間様に対するうしろめたさか、見知らぬ島で現地人にツルシアゲをくらうこわーい夢で目覚めた。目やにで目が開かないよう。テレビをつけると世界で最もインチキな生き物の「みのもんた(仮名)」が本当はよく知らないことを口紅がはみだしたおばさん達に力説している。取り敢えず天気がいいわあ。フトンでも干すか。やるなァ、主婦。お、お隣さんも洗濯物を干している。たいした素材のモンはないわね。うわあ、風がふいて興味がぜんぜんもてない隣の旦那のパンツがこっちにむいたよう。カーッ、奥さん、それじゃあやりきれないねえ。と、白いブリーフに苦笑いしながら、「でも今日、天気いいわあ、本当。」と、言おうとしたけど、さっき起きたところだから滑舌が悪い。
4月20日
もう二時か。そろそろ買い物でも行こうか。ベータカロチンは魚と食べるより肉と一緒のほうが癌を抑制するのよ、やるなァ、主婦。じゃあ、緑黄色野菜を買いに行こう。フムフム、今日は特売の目玉商品が乏しいなあ。それに野菜とか重いモン。ヤレ、帰るとするか。アレ、今日、夕飯どうするよ。まあ、お花がきれい。道端の花達はわたしに「奥さん、若いねえ、旦那とうまくやってるのかい?」って言ってるみたい。うわあ、よく見てから角曲がってよね。ダサイ白のブルーバード。拍子にかわいい花を踏んじまったはないのよ。でもね、雑草てのはね、踏まれてなんぼなのよ。あんた、いいわねえ、生命力あってさあ。あっつーい。180円をけちって歩くもんだから、小脇がしっとりしてきたわ。おっ、フジマート、無理に横文字つかっちゃってさあ。スイマセーン、これひとつ。「もう暑いからねえ。」「ちょっとね。」ガリガリ君、ソーダ味。固くて角も噛めないわ。小さい子と、お母さん。見ちゃいけません、て感じで娘の手を強く引く。ハハハうまいぞ、買い食いは。
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