以前にTannoy LSU/HF/3LZ Monitor Red 10" のmint-conditionをebayで落札した話を書きましたが,今回そのCrossover unitを分解してリバースエンジニアリングをしました!

見た目が本当にmintなので”もったいない”と強く思ったのですが,,,やっちまいました!

その理由は,,,

1)いくらmintとはいえ,50年近く経ったものなのでコンデンサの劣化などが心配で現在の部品で新造してみたいと思った

2)ネットでいくら探してもRedの10"付属のクロスオーバーに関しては全く情報がない

3)Tannoy本社に問い合わせても「回路図は社外秘なので教えられない,修理等が必要ならば代理店に相談してみてくれ」とのことだった

4)ネットワークの中古品を探しても結構高価!!!

なので,断腸の思い(なんか最近多い)で開けてみました

ケースは金属製で,ネジやハトメではなくハンダで封をしています.つまり,再び開けることを考慮していないようなのです.ハンダを溶かして開けると中の部品が熱でダメになる可能性があるので仕方なくヤスリで角を削り強引に開けました

手前の壁はヤスリでは歯が立たなかったので強引にちぎりました(ここまでくればとどまるところを知りません!!!  が,中身には傷一つ付いてなかったのが幸いです)

 

中には

音質調整のための2回路4接点のスイッチ

33Ωと68Ωの大型抵抗器が付いていますが,抵抗計での実測値はそれぞれ33.5Ωと74.3Ωでした.両方とも+10%には収まっていました

 

端子板

 

トランス

 

ワックスに封入されたコンデンサ

紙のケースから出して,ワックスを取り除いてみると3個のペーパー/フォイルコンデンサのようです

それぞれの容量は,手持ちのブリッヂ(ZM11)によれば,左から2.1μF,0.81μF,0.85μFでしたが,右の二つは右のほうが小さいように見えるのに容量が大きい,,,やっぱり,経年劣化があるのでしょうか???

 

端子板の下に(ケースの形状から言えば上に)トランスとコンデンサブロックがあって,その横にスイッチがある感じです

端子板・トランス・コンデンサブロックの塊はこれもハンダ付けされた支えでガッチリ固定されています

このスペースに手前から,コンデンサ,トランスの順に収まっていてその上に端子版が載っていて左右から出ている押さえの板でガッチリ押さえ込まれていました.その奥にロータリースイッチ,一番奥の2つの穴は入出力のケーブルの通る穴です

これだけしっかりハンダで密封されているということは、中の空気はイギリスの香りだったのかもと思ってしまいました

 ま、それは半分冗談としても、本当にシッカリと封がしてあり湿度等の影響を受けないように感じました

このネットワークの繋がる先の Monitor Red 10" ですが,LowユニットのDC抵抗は4.0ΩでHighユニットのDC抵抗は24.4Ωと公称のネットワークのインピーダンス16Ωとかなり違います.間に入るトランスがインピーダンスマッチングを担っているのでしょうか

そのトランスの構造ですが,抵抗計,低周波発信器,AC電圧計で調べてみたところ

こんな感じです.巻線に書いてある矢印は巻線方向で,茶青の巻線は極性があんまり関係ないようなのでチェックしませんでした.また,数字は 巻線比とDC抵抗です

 

これらが,↓のように繋がってます

入力側のインピーダンスが16Ωとすると,Low側のインピーダンスは6.15Ω,High側は30Ωの計算になってDC抵抗の測定値と矛盾ないのでこのトランスでインピーダンス整合をしていると思われます

茶青の巻線に0.85μFが繋がっている意味は,,,ちょっと置いといて,スイッチの各ポジションを考察してみます

 

まずその前に,Low側のみの回路は

となります.トランスによってインピーダンス変換が行われてます

 

Highのポジション①は

2.1μFのローカット+0.81μFのハイカット(fc:2kHz -6dB/oct.)+33Ωと68Ωによるアッテネーター (-6dB)

 

ポジション②は

2.1μFのローカット+33Ωと68Ωによるアッテネーター(-6dB)

 

ポジション③は

2.1μFのローカット+33Ωと68Ωによるアッテネータ(-6dB)+68Ωと0.81μFによるハイブースト(fc:2.9kHz +3dB)

 

ポジション④は

2.1μFのローカット+33Ωと68Ωと0.81μFによるハイブースト(fc:2kHz +6dB)

 

となり,いずれの場合にも極性の反転が行われています

つまり,①でハイカット,②でフラット,③で+3dBのハイブースト,④で+6dBのハイブーストのフィルターが2.1μFのローカットコンデンサの後に挿入されている感じですね

2.1μFの後ろのインピーダンスはボイスコイルが30Ωとすると低域に関してはいずれも33Ω+68Ω+ボイスコイル30Ωで131Ωとなり,カットオフは580Hzとなります

カタログ上でのクロスオーバー周波数は1800Hzとなっていますが,,う〜〜ん,,,どうでしょう,,,,ホーン部分のカットオフやコーンスピーカーの高域の減少カーブ,ハイブースト回路の効き具合など総合的に見てのことでしょうか

 

茶青のコイル+0.85μFの回路ですが,この巻線のインダクタンスは測ってみると3Hほどなので並列共振周波数は100Hz,この時の入力側(赤・黒)のインピーダンスほぼ5KΩ.この巻線をインピーダンス変換とみなすと入力回路の16Ωに20μFが並列に入っているとみなされます(いずれも計算値)

これらを総合的に考察してみると,,,,,

共振回路もコンデンサも負荷抵抗に並列に入っていることから,理想電源(内部抵抗0Ω)で純抵抗負荷を駆動する場合ならば(DC域と超高周波域を除いて)影響は「無い」と考えられます

ところがコーンスピーカーのボイスコイルは純抵抗負荷ではなく周波数特性を持っています

こんな感じです

なので,内部抵抗の高いアンプ(電源)でスピーカーのボイスコイルを駆動すると加えられる電圧が上のグラフと相似の周波数特性を持ってしまいます

そこに,負荷(ボイスコイル)と並列にコンデンサが入るとどうなるか,,コンデンサは高域になるほどインピーダンスが小さくなるのでボイスコイルの高域におけるインピーダンスの増加を相殺するのでは??上のグラフの"b"の時のインピーダンスは公称インピーダンス(今の場合入力端で16Ω)なので並列の20μFが効き始める周波数は500Hz,通常のコーンスピーカーでは"b"の周波数は400Hz~600Hzなのでほぼピッタリ!!

また,共振周波数(100Hz)より低い側はインピーダンスが低下して行ってfo(3LZの場合27Hz)の山をある程度緩和してくれるのかもしれません

つまり,茶青巻線+0.85μFの回路はコーンスピーカーのインピーダンス変動を抑えて,音質上の高域の暴れと低域の盛り上りを補正する目的なのだと思います

このような回路が12"で見られないのは,コーンが大きくなると高域が出にくくなるのをこの補正を無くして高音をブーストしているのでは(その分中高域がキラキラしている?)??

また,モニターゴールド以降の時代はアンプの性能が上がりダンピングファクターが大きくなった上にコーンスピーカーのボイスコイルインピーダンスも大きくなりマッチングトランスが必要なくなりこのような回路を組み込みにくくなったとも思われます.また,直接20μFといった大きな値のコンデンサを回路に使うことはサイズ的にも音質的にもデメリットの方が大きいためハイカットフィルターを採用した方が良いとの判断でしょう)

なのでモニターレッドの12"ではダンピングファクターの大きなアンプで鳴らすとLow部分の高域,つまり音楽の「張り」が物足りなくなってしまうのではないでしょうか??また,モニターレッドの15"やモニターゴールド以降のLowにはハイカットフィルターが入っているので高域の音色はダンピングファクターの違いでそれほどの違いはないと思われますが,foの盛り上りに関しては少し違いが出てくるかもしれません

ただし,モニターレッド10"には20μFとかなり大きなコンデンサが負荷になっているので,容量負荷に弱いアンプ(初期のトランジスタOTLアンプや,真空管アンプでもOTLや高負帰還なもの)にとっては厳しいかもです.ま,そんなアンプを使うことはないでしょうが,,,

 

とまあ回路を見ての,言ってみれば机上の空論ですが  当たらずとも遠からずと思います

測定と抵抗・コンデンサの交換後の変化などはまた後ほど