ECC88族に関する考察、,というほど大げさではないのですがこの間ちょっと考えたことがあったので記してみます。

PCC88(7DJ8) ECC88(6DJ8) E88CC(6922) E188CC(7308) E288CC(8223) はヒーター違いの同族と言われていますね。このうち E288CC を除く4者の特性はオフィシャルの発表を見る限り全く同じ(ヒーター規格のみ違う)です。E288CC はアノード電流も多く流れgmも大きく,全く違った特性なのでちょっとわきに置いておいて,4者について考えてみます。

まず,ヒーターですが
PCC88(7DJ8) : 7.6V 300mA 2.3W
ECC88(6DJ8) : 6.3V 365mA 2.3W
E88CC(6922) : 6.3V 300mA 1.9W
E188CC(7308) : 6.3V 335mA 2.1W
(ちなみに E288CC(8223) : 6.3V 475mA 3.0W)
PCC88(7DJ8)については 7Vヒーターであるとの記述を見かけますがPhilipsの資料によると1958年のものは7Vとなっていますが1962年のものでは7.6Vに修正されています。どっちにしてもヒーターの規格は電流規格なので電圧はあんまり関係ない,というかトランスレステレビでヒーターを直列してACラインにつなぐにあたって0.6Vぐらいどうでもよかったと思われます。さらにPCC88(7DJ8)から派生したECC88(6DJ8)のヒーター電力が2.3Wであることを考えると7.6Vとするのが妥当であると思われます。でもそうすると,8DJ8とするのが妥当と思われますが,初めに7DJ8として登録した関係でそのまんまにしているのでしょうか?(ちょっといいかげん?)

ここで面白いのは,元となったECC88(6DJ8)より高信頼管であるE88CC(6922) や E188CC(7308)の方がヒーター電力が少ないということです。
ヒーター電力が大きいと真空管の管内温度が高くなりガス放出やグリッドエミッションの関係で寿命が短くなると言われています。(海底ケーブルなどで使用されていた6SJ7の高信頼管5693はカソード温度を低く設定してあると聞いたことがあります。この場合は電力そのものは同じですがヒーターやカソードの材質やサイズを変えてあるのかもしれません)
また,Western Electricの例に見るとおり,ヒーター電力を大きくすると動作の安定度や過大なピーク入力への追随などがよくなると言われています。また,同じ規格ならばヒーター電力の大きいものの方が概して音が良いと思われます。これは,熱電子放出の余裕度が大きくなることによって良い結果をもたらすのだとか。
ということは,E88CC(6922) や E188CC(7308)は動作上の余裕を多少犠牲にしても長寿命を狙った設計であると考えられます。また,E88CC(6922)の使用目的にはコンピューター用途が明記されていて長時間のカットオフ後でもエミッションが低下しないと謳っています。同じコンピューター用の真空管 E180CCなどではマイクロフォニックノイズには弱いので低周波増幅には向かないとはっきり書いてあったりします。E88CCの場合は,フレームグリッド構造であることから本来マイクロフォニックノイズには強いため特に注意喚起をしていないとおもわれます。
E88CCについて言えば,構造上もほかのものと違っている点があります。カソードスリーブの上端をマイカのスプリングで押さえていないのです。これは,私の持っているSiemensブランドのものとMullardブランドのもの両方ともそうなっているので,少なくともヨーロッパでは押さえないのが標準ではないかと考えます。それ以外のECC88族はみんな(リモートカットオフ特性のECC189や低電圧動作管のECC86などを含めて)押さえてあることを考えると,E88CCは特にマイクロフォニックノイズを考慮に入れていない構造であることが見えてきます。つまりデジタルコンピューター用途をおおきな目的の1つにしているということです。
アナログコンピューターやDCアンプの初段に使用されるWE420Aなどがマイカではなく金属ワイヤーでガッチリとカソードスリーブを押さえ込んでいるのを見ると益々そう考えざるを得ないと思います。
結論として,E88CCはデジタルコンピューター用の真空管として長寿命を狙ったものであると言っていいと思います。デジタルコンピューター用の真空管は電流を流せることが必要でその点gmの大きいECC88族はもってこいだったのではないでしょうか?もちろん電極の基本構造はECC88と同じなので高周波用途などにも使用することができるのでカタログ記述もそうなっていると思われます。

E188CCに関しては特にコンピューター用途は書かれていない代わりにローノイズ,長寿命が謳われています。ここにマイカスプリング構造とヒーター電流335mAの理由があると思われます。つまり,マイクロフォニックノイズに対する考慮+ヒーター電力を押さえることによる長寿命です。

これらを総合的に考えるとECC88遡ればPCC88の設計において,若干無理があったのではないかと思われます。つまり,この設計では寿命の点で高信頼管のスペックは満足できなかったのでは?というか,特性を欲張りすぎてギリギリの設計になってしまっているのではないでしょうか?たしかに初めは,アノードやカソード,グリットの材質やコーティングを吟味して充分耐久性を持たせていたのかもしれません。しかし,後々の大量生産&低価格競争のなかで,だんだん質の低下を招き(使い捨ての民製機はいいとしても),そのままでは(民製用途のものの選別では)高信頼管を確保できなくなってきたため用途別に新たに設計したのではないでしょうか?E288CCではガラス管の長さも電極の長さもECC88より長くなっているのはそのせいでしょう。

そこで,音の話になるのですが,,
ECC88(6DJ8) : 6.3V 365mA 2.3W 元気のいいパワフルな音
E88CC(6922) : 6.3V 300mA 1.9W おとなしい,よく言えば優しく広がる音
E188CC(7308) : 6.3V 335mA 2.1W 中庸な音
といったところでしょうか
音のパワーはヒーター電力の違いがそのまま出ているのでしょう。E88CCの広がりは機械的構造の違いによると思われます。私が使っているのはヘッドフォンアンプなのでマイクロフォニックノイズが音質に影響するはずは無いのですが,経験上,機械的構造がガッチリしているとカッチリまとまった音になって,ゆるゆるだと(言い過ぎか!)付帯音がつく感じがしないまでも響きが加わるような感じがします。ここの響きの質というか音質に対する好みが評価の分かれる所になるとおもいますが,E88CCに関して言えば私の好みにあっているといえましょう。でも,初めは「すかすか」な感じでしたが聞いているうちにエージングが進んだのか響きも澄んだ音になってきてよくなりました。

以上のことをふまえると,ECC88族はそれぞれ音の違いがかなりハッキリしているので好みとその場の雰囲気で差し替えてやると楽しめるということですね!ただ,PCC88(7DJ8) ECC88(6DJ8) に関して言えば粗製濫造したものは寿命が短いかもしれませんね!
あと,PCC88(7DJ8) のヒーター規格が修正されたのも案外,7Vでは予定した特性が得られにくかったのでヒーター電力を増やしたのかもしれません。なので,これらを使うときはよく吟味してかつ数を確保した方が良さそうです。でも,吟味といっても,,,私は,全体の雰囲気/作り,をよく見ることにしています。見ていると何となく,ちゃんと作ったものかそうでないか判るような気がするのですが,,,ハズレも多いですが,,,

といった所で今回は長くなりましたが,以上です

ちなみに私の持っているのは
ECC88(6DJ8) : Amperex 1本 <米軍ジャンクのお店で見つけました,箱入り>
E88CC(6922) : Mullard,Siemens 各1本づつ
E188CC(7308) : Philips 4本<全部おなじコード>
E288CC(8223) : Siemensブランド(東欧製?)2本
あと,6DJ8<ブランド不明>,7DJ8<ブランド不明>,6922<PhilipsECG製>各1本がくる予定です