この四月に「最近、人に道を聞かれなくなった」と嘆いた(?)私だが、

<2024年4月25日の拙ブログ>

 

 2日前、久々に人に道を聞かれた。

 それも英語で。

「Team lab ★!▼;◆|●?」

 最初の「Team lab」だけは聞き取れた。聞いてきたのは欧米系の外国人男性二人連れ。

「What? ああ、チームラボ・・・ You are ・・・」

 などと誤魔化しながら間を取った私は、真っ先に頭の中に浮かんだ英語を口走った。

「Opposite side!」

 反対側。

 私たちが、国道1号線を挟んで、彼らが行きたい「チームラボ」の反対側にいたことは事実である。だが、道の両側を指して「反対」を表わすのを英語でoppositeというのが正しいのかどうか、私は知らない。

 東京都港区にこの春オープンした麻布台ヒルズにあるその施設には、入ったことはない。だが、先進的な「デジタル美術館」として人気があることは知っていたので、場所は知っていた。

 地下鉄・神谷町駅の改札を出れば、案内板が見える。

 今、展示されているのは、この写真のような作品なのであろう。

 麻布台ヒルズ内に入っても同様の案内板が。

 入口にはたくさんの人。欧米系の人が多いね。

 地下鉄駅の改札口から歩けば、上下移動なくこの入口に辿り着ける。つまり、この施設は地下にある。

「Cross the road, and go to underground」

 これが私の、彼らへの答えであった。もちろん、手で方向を示すボディーランゲージも一緒に。

 こんな案内で着けたかなあ、間に合ったかなあ、彼ら。入場時間が決まっている前売りチケットでないと入れないみたいだから、無駄にならなければ良かったんだけどねえ。

 入口での案内は、日本語だけで行われていた。

<以上、写真は2024年10月3日東京都港区で撮影>

 

 というわけで、最近の神谷町近辺は、とにかく外国人が多い。

 私が朝、出勤前に立ち寄ることが多い会社近くのカフェも、朝食を求めたり、その日の観光計画を話し合ったりする外国人達でいっぱいであることが多くなった。おかげで、私が立ち寄る機会は、ピーク時に比べてガクンと落ちた。月に10回が2回に、という感じだ。

 そんな10月初めの朝。久し振りにこの店に入ろうとしたら、外国人の方々による長い行列。「しもた!」と思ったけれど、このまま出社すると余りに早いので社員にプレッシャーになるから、行列の後ろにつく。私の前は、同じ頃の時刻によくこの店で見かける男性。いわば、お互いに「常連」だ。

 外国人の皆さんは、朝食なのであろう、サンドウィッチや何とかドッグみたいな物を次々と注文する。それらをレジで捌くのは韓国人の若い女性店員。私がこの女性を韓国人と断定するのは、名札と、数ヶ月前に韓国人のお客さんと韓国語で会話していたのを見たから。母国語と日本語だけでなく英語も達者で、だからこそ、この店に勤めているのであろう。

 その彼女が、滞っている多数のパン類の注文に応じるために、レジ後ろの厨房に入って、レジを離れる。

 ここで、今まで客に背を向けて不機嫌そうに食材を扱っていた男性店員がレジに進み出てきた。

 いや、店員ではない。私がこの店に入るようになった当初からずっとこの店にいる。おそらく「店長」だろうと、私はずっと以前から思っている。

 ただ、あんまり客商売に向いている性格とは思えないんだけどね。無愛想で、表情も暗くて硬いし。それをご本人も自覚されているのであろう。だからレジには立たないんだ。

 その彼がレジで、私の一人前の「常連」さんにオーダーを求める。「常連」さんは品物の名だけを告げ、支払いのカードをさっと端末にかざす。

 ピッピッ、と電子音がして決済完了。

「はい、お飲み物は左でお受け取り下さい。次の方どうぞ」

「次の方」とは私。

「アイスコーヒーM」

 レジの彼は、私が何のカードを使うか覚えてくれていた。私がカードをかざす頃には、既にそのカード読み取りモードにレジは設定されていた。

「はい、アイスコーヒーM、左手でお願いします」

 私が必ずレシートを受け取ることも覚えていてくれて、何も言わずにレシートを差し出す。マニュアル通りなら、「レシートはどうなさいますか?」と聞かなければならないし、他の店員は必ずそうするのだが。

 品物を受け取れと言われた左手には、従前の外国人達がまだオーダーした品を待っていた。その頭越しに私は、このアイスコーヒー誰のだろう? みたいな表情をしている店員を

「それ、私の」

 と振り向かせて、黒い液体の入った細長いガラスコップを受け取った。

 レジを振り返ると。行列は、なくなっていた。件の「店長」は、コーヒー豆の袋を整理していた。

 席に座ってパソコンやスマホを操作し、ふと顔を上げてレジを見ると、また行列が出来ていた。だが、レジからも、厨房からも、私が今朝この店に入ったときにあった繁忙感、あたふた感、もっと言えば「殺気」といったものが、消えていた。