東京都港区虎ノ門5丁目。かつての地名を名に残す西久保八幡神社に程近いところに、吉野家がある。かの有名な牛丼チェーンだ。

 早く昼食を済ませたいときによく使っていた。午後にお客さんの所に行かなきゃいけないのにその前の仕事が押して昼食時間が十分に取れなかったときなどだ。

 ところが、昼食時にこの店に行列が出来るようになり、早く食事を終えられるどころか、逆に時間がかかる状態になってしまった。そのため、半年以上、足が遠のいていた。

 原因は、アジア系外国人観光客の皆さんがこの店に押しかけるようになったからだ。

 東京タワーと麻布台ヒルズに挟まれたこの店は、完全に観光ルートに組み込まれてしまった。別にガイドブックに載っているわけではなさそうだが。

 同じ観光客でも、欧米系の人はこの店にはほとんどいない。やはり、丼物というメニューと、狭い客席の故であろうか。こうなると、大企業のチェーン店も屋台に見えてくる。

 アジア文化圏の人は屋台には慣れている。

 都合によりちょっと昼食時間が遅れたこの日。その上、台風が迫っているために午後の予定が一つキャンセルになり、久々に昼食時間に余裕が。そこで、待っても良いからと、吉野家に入った。

 やはり行列だった。待っているのは6・7人。そのうちの4人はアジア系外国人のカップル二組で、うち一組は年配の男女だった。

 待っている場所から見渡すと、客席の半分は外国の方々。もっとも、アジア系なので本当のところは外国人なのかどうかを完全に見分ける自信は、私にはない。それでも、半数が外国人と言い切ることは出来る。

 もともとアジア系外国人の店員さんが多い店でもあった。メニューに外国語はない。店員は、外国人でも日本語だけで応じる。「サンキュー」「レシート」「OK」くらいの英語は使われる。

 この日レジを任されていたアジア系外国人の小柄な若い女性店員は、見事に次々とやってくる客をさばいていた。

 行列で数分待ち、この店員のリードでさっと席に座り、さっとオーダーし、さっと食って、さっと支払いを済ませて店を出た。このテンポ感は久し振りだ。

 だが、観光客の方々のテンポはゆったりしている。私など日本人ビジネスパーソンのように急ぎはしない。おもむろにメニューを開いて見回し、指さしでオーダーし、穏やかな表情で待ち、おそらく初めてであろう食べ物をゆっくりと口に運び、その感想を連れの人に話す。

 その前を店員が早足で行き来する。叫びながら、といって良いくらいの大声を出しながら。

 店を出た私は曇った空を見上げ、そろそろ雨になるのではないかと感じつつ、会社に戻った。

 深夜の今、外は激しい雨である。明日(8月30日)は社員全員在宅勤務にしたと、ある取引先から連絡があった。けど、月末日なんだよなあ・・・

 台風の被害が少ないことを祈ります。