『七月の心臓』兵庫ユカ(1) | 喜劇 眼の前旅館

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兵庫ユカ第一歌集『七月の心臓』を読む。

兵庫さんは第二回歌葉の次席だった人です。そのとき新人賞を受賞したのが斉藤斎藤氏ですね。
斉藤氏についてはその後穂村弘氏が「倫理観」という言葉をキーに語ったことが私には印象的で、多分ぎょっとしたんだと思いますが、それからずっと頭を離れないようなところがあります。

というのも倫理、というのは私にはあまりピンとこない言葉なんですね。短歌の話だからではなく、私にはもともと倫理的なものが薄いというか、たとえば私は私自身の基準というのが(文学的にも生活的にも)ほぼなくて、つねにどこか外にあるもの、誰か他人とか、世間とかを基準にして生きている。どっちかといえばかなり道徳的な人間なんだと思います。なくもない不道徳志向、みたいなのも含めて、道徳的。

それで倫理的、という自分には元来希薄なものが、短歌という、自分が表現手段として試みているものの中では、主観的にはわりあいうまくいっている分野、の中で問題にされたときに、思わずぎょっとしたわけです。しかもそれは、自分も候補には残った賞で最終的に選ばれた人を、その賞の審査員でもある人が評した言葉だ。これは気にせざるを得ませんね。

兵庫ユカさんの歌もかなり倫理的です。何かと二つのものを較べてしまう癖が、私にはありますが、兵庫さんを斉藤斎藤氏と比較するような読み方が、少し前から私の中で力を強めていたようなところがあります。それは先に書いたような経緯のせいもありますが、やはり作風の方面に何かそういう読み方を誘うところがあったと思うんですよね。

で、今回歌集のかたちになったものを読み、やっぱりこの二人はすごく似ているんじゃないか。という気がしました。もちろん全然違うんですが、違うのにこんなに似てる、というか、似てるのにこんなに違うものになるんだ。ということに何だかびっくりしますね。