2012年度第3回定例会「同性愛者と法的諸問題」報告
文責:林義拓
第三回定例会を実施しましたので、報告します。
今回は、弁護士の山下敏雅先生をお招きして、「同性愛者と法的諸問題」と題した御講演を頂きました。具体的なエピソードや事例を挙げながら、整然としかし情熱的に、同性愛者を取り巻く法的諸問題について幅広くお話を頂きました。
第一線の現場で仕事をされている方にしかできない内容で、非常に感銘を受けましたし、今回山下先生にお願いして本当に良かったと思いました。参加者の皆さんもきっと、御自分の人生設計に照らし合わせ、得られるものが多かったはずです。
その内容を、限られた紙幅で要約することなど到底できませんが、以下ぼくが印象的と感じた点を三つ書き出して(それに感想を交えて)、報告に代えたいと思います。
□ 実際の相談は、アウティングに絡むものが多い。
きっと法的親族との揉め事が相談内容として多いに違いないとぼくは思っていたので、正直これはかなり意外でした。
アウティングに絡む問題とは、カップルや友人関係のこじれ(や、ハッテン場におけるいわゆる「プロ」に絡んだ問題)を背景として、相手から(家族や職場に)ゲイやレズビアンだとバラしてやるぞという脅しを受ける、という事態のことです。
山下先生からは、そうなった際の具体的な対応策についてもお話があったのですが、個別性が高いテーマとも思いますしそうなった時は永野・山下法律事務所の扉を叩けば良いということにして、ここでは別のことを少し。
――この、アウティングに絡む問題というのは言ってみればゲイ同士・レズビアン同士で発生するものだ。他の国でよく話題となる、一般社会とゲイ・レズビアンとの間で生じる人権問題と比較して、何とも「内向き」な拗れである。
――しかしながらよく考えてみると、そもそもこうした(アウティングされることが甚大な社会的不利益を惹起してしまうという)状況自体が、ゲイ・レズビアンに対する構造的差別抜きに成り立ちえないことに気付くはずだ。
山下先生から、このような指摘があり、たいへん考えさせられました。
アウティング問題の存在はぼくも知っていましたが、それは「悪い」ゲイ・レズビアンが行う「特殊な」問題だと、これまでは内心では思っていたのです。それを社会構造的な問題の反映と見ることで、視野を一挙に広げることができました。
そう考えてみると、この問題についても、レイシズムやセクシズムともほぼ同型の(マイノリティ同士の分断という)議論が成り立ちうる。いまのところこれ以上のことはここでは書けませんが、もっと考えてみたくなりました。
□ ゲイ・レズビアンは、もっと将来世代への貢献を考えるべきだ。
ここでいう「将来世代」というのはつまり、「こども」ということです。
――アメリカをはじめとする他国では、たとえば養子縁組など、ゲイ・レズビアンがこどもを育てることについて関心が高い。もっと日本においても、養子縁組に限った話ではないが、直接こどもに関わろうとする動きがあって良いのではないか。
――もちろん日本では、ようやくパートナーシップ保障を語れるようになった段階であり、まだまだ育児などまで頭が回らないのかもしれない。しかしパートナーシップ保障に限っても、(法律婚がこどもを産み育てるユニットゆえにこそ保障されるとする意見があることを鑑みれば)無関係な話題とは言えまい。
……えー、実は前回の定例会テーマは「LGBTと子育て」だったりしたのですが……。
ただ、一般論として、まだゲイ・レズビアンの間で、「こども」の話題があまり盛り上がりを見せていないことは事実だとぼくも思います。まだまだ、医療や相続などにおけるパートナーシップ保障の方が、強い関心事でしょう。
ひとは、こどもを育てることを通じて社会に貢献すべきだ。こうした考えは、単なる道徳的保守主義にも思えますが、ぼくはそうは思いません。それは二つの観点から、ゲイ・レズビアンに関わる先鋭的主題となりうると思います。
第一に、社会的包摂という観点。社会はこどもを育てることで再生産されるものである以上、こどもを育てない社会は例外なく滅びます。つまり社会にとって、こどもを育てるという営為は根幹に位置し、そこに関与するか否かはゲイ・レズビアンがこの社会に包摂されているか否かとパラレルである。
第二に、文化的伝承という観点。ゲイ・レズビアンは、この一般社会の中で独自の文化的マイノリティ集団としても存在し、かつそうあることでゲイ・レズビアンを保護しています。ゲイ・レズビアンが、養子縁組など様々な方法でこどもに関わることで、ゲイ・レズビアンのこどもを支える地盤を作ることができる。
□ 法律相談は役に立つ。
やはり最後に挙げるべきはこれでしょう。
ぼくなど医療職の人間は(社会運動系の人間も?)、つい思い付きや思い入れで行動したくなってしまい、法的裏付けがないままに突っ走る傾向がありますが、既存の法律で何が可能で、何は不可能なのか、はっきりさせることは重要です。
在留資格と友情結婚を巡る話題、医療現場での任意後見契約の活用、遺言によって可能な範囲、……など(確かに我々が望むものすべてが法的に保障されているわけではないけれども)どこまでなら可能なのか知っておくことはそれ自体意味がある。
また、現状では法的に可能で「ない」ものについても、法律家たちは(たとえば人権救済申し立てなどを通じて)現状を変えるべく動いていくことができる。個々の事案に対しても、様々に戦略を立てて少しでも有利な解決に向けて戦うこともできる。
法律相談というと、ぼく自身もそうですが、なかなか縁遠く感じられる方も多いですよね。けれども、自分に対して、より良い社会に対して、それは確かに役に立つ。当日の山下先生のお話は、そうした確信を抱かせるに充分なものでした。
他にも、もっともっとお伝えしたいことがあるのですが、報告としてはあまりに長すぎてしまうので、ここでキーボードから指を離すことにします。当日参加された20名弱の皆さん、お疲れ様でした。参加叶わなかった方は、是非次の機会に。
開催情報:
2013年2月17日(日)13:30-16:30
三栄町生涯学習館多目的室
〒160-0003 東京都新宿区本塩町2
旧区立四谷第三小学校
山下敏雅先生のプロフィール:http://ymlaw.sakura.ne.jp/