名もなき日々を

髪結い伊三次捕物余話

 

昨年亡くなられた宇江佐真理さんの人気シリーズの13作目にあたります。文庫版が出るごとに手にとってきた愛読シリーズですが、この後もう一冊単行本として出版されている「竃河岸」が最後になるということです。

 

本業の髪結い仕事をしながら、同心の小物を務める伊三次と深川芸者のお文の恋物語を軸にお江戸の世相を人情たっぷりに語ってきたシリーズも近年は世代交代が進み、彼らの息子や娘たちが主になるストーリーが展開しています。ずっと読者としてお付き合いしてきた、伊三次や同心の不破家の人々は、まるで自分の知人の家族たちのように心に馴染んでいます。

 

子どもたちが生まれるときの、若い親たちの心情から子育ての苦労や喜び、それぞれ成長して自分の行く末を自分で見つめて、迷いながらも一所懸命生きていく彼らに起こる一つ一つを一緒に喜び、心配したり、時には涙をこぼしたりしながらの読書でした。

 

絵師を目指す伊三次の息子の伊与太と不破友之進の娘の茜の淡い恋は、二人の住む世界が違ってきている事からどうなるのだろうと、気を揉むワタシはまるで近所のオバサンです(笑)

 

登場人物の一人ひとりの性格が粒だって光り、食や美術、芸能、武家社会や町人の暮らしぶりが見事に浮き上がるこのシリーズが大好きです。いつかの後書きで、宇江佐さんご自身がこのシリーズには終わりを作らずずっと書き続けると宣言して下さっていたので、安心して読んでいました。それが突然にお別れが来てしまい、とても哀しい思いですが、宇江佐さんが残して下さった数々の温かい物語はずっと愛読者たちの宝物としてあり続けることでしょう。

 

シリーズ最終話も楽しみにして、読みますね、宇江佐さん!