続いて、こちらの「お縫い子テルミー」。
中編が2作、収められている。表題作と「ABARE・DAICO」。
テルミーって何かな、と思ったら主人公(語り手)の名前だった。本名、鈴木照美。名刺には「一針入魂 お縫い子テルミー」とあり、プロフェッショナルな出張というか居候仕立屋だそう。
南の島で、祖母・母と三人で居候先のご主人様・奥様・お子様たちの雑用などをしながら育ったテルミー。裁縫は祖母に仕込まれ、腕が立つ。15才の時に、女一人で生きてゆくなら歌舞伎町しかない、と言われて上京した。勤めたお店の専属歌手、シナイちゃんに本当の恋をする。シナイちゃんのおかげで仕立屋家業も軌道に乗るが、歌と恋してるシナイちゃんに対するテルミーの恋心は決して報われることは無い。
といったようなストーリーで、こんな女のコが現実にいるとも思われない設定で、ある種ファンタジーみたいな雰囲気。けれどもふんわりしたファンタジーでは無くて、テルミーの仕事に対するプロフェッショナル意識や生地を選ぶ様子、裁断をする潔さ、顧客との会話など、芯が入っていて凄く魅力的。
個性的なキャラクターや突飛な設定、新鮮な言葉使いなど、栗田ワールドは自分にとって、とても心地よい世界。
もい1編の「ABARE・DAICO」は、小学5年生の主人公・小松誠二くんが夏休みにアルバイトをするお話。こちらは、アルバイト先の酒井さん以外はそれほど突飛なものは出て来なくて、わりと現実社会内での出来事に思えるが、主人公の少年の感性や、友人、母親などそれぞれの言動がやはり心地よくみずみずしい。
このアルバイトを始めるにあたって、少年は誰にも知らせない。それは、「だれにもなにも、コメントしてほしくないからだ。」と思う。じぶんでやると決めて、実際やるのはじぶんなんだから、意見を持つのはじぶんだけ。
「ひとりで、じゅんすいに、いろいろと感じたい。」
これって、スゴクよくわかるよ、誠二くん。間違ってても、正しくても、そのことについては、じぶんでよく考えたいものだよね。
それにしても、この二編のお話のどちらの主人公も、けなげに偉くて可愛かった。
賄い:メニューに困ったときの、、、炒めご飯系(笑)
正統派オムライス。