わあっ、ジジイだ。
店先にジジイの姿を発見した僕はゲンナリする。
二言目には「ネットで流したらこんな値段じゃ買えん」とボロボロで使えないライトを売りつけようとし、パンク修理に来た子供に「本当は3000円やけど1000円にまけといてあげる」と恩着せがましいことを言っていたというジジイに愛想がつきていた僕は出来ることなら父ちゃんか、あんちゃん(ここの自転車屋は親子3代でやっている)にいて欲しかったのだ。
自転車を引いて来る僕の姿を見たジジイはすぐにトラブルだとわかったのだろう。
「どうかしたんけ?」
と聞いてくる・・・が、次の瞬間、僕の手にあるペダルが目に入ったようだ。
「あら、そんなもんはずしてもたらアカンが!そんなとこイジルもんでねぇざ」
ときたもんだ。
素人がヘタに手ぇ出すもんじゃねーぞとでも言いたそうな口ぶりだ。
素人以下の仕事したヤツがよく言うぜ!
ウグッ、怒りスイッチに手が伸びる。
が、ここはグッと怒りを堪え静かに話す。
「わざわざはずしたわけじゃねーざ!とれてもたんやぁ」
「はぁ?とれた?」
「おう、おんさん自転車組むとき溝きったるとこと違うとこにはめたやろ?!そのせいでギアが削れてここんとこがゆるゆるになってもうたんや!」
「ははは、んなことあるわけねーざ」
半笑いで後ろ向きで手を振りながら店の中に引っ込もうとするジジイ。
な・なんぢゃその態度はっ!!!
「はぁ?ちょっとこっち来てみぃ!」
声を荒げる僕の声に近寄ってきたジジイ。
トラブルの箇所を指差しながら説明する。
「な・ここよう見てみぃ。このギアんとこ削れてるやろ!これおんさんが本来つけるとこと違うとこ力任せにつけたで漕いでるうちに削れてもうたんじゃ!」
「いや、そんなことあるわけねぇわ」
「あるわけねーって現にこうなってるやろし!ここんとこ開けてみたら中から金属の削りカスぎょうさん出てきたわ!」
「違うとこ止めたらちゃんとつくはずねーんやけどな」
「ちゃんとはついてねーわな!現にペダル取れてるし!しかもコレッ!この錆錆のボルト寸法が短いで俺が一旦ばらしてちゃんとしたとこ付け直してからもすぐに取れてまうんじゃ」
ボルトを見ながらジジイが言う。
「・・・これついてたんか・・・これはおうてないわな」
おいおいジジイボケたんか?
アンタが組んだ自転車やろが!
「いや、せやけどこんなことあるわけねーんやけど・・・」
カチッ、チュドォオオオーーーーン
なおも言い張るジジイの言葉についに僕の怒りのスイッチが入る。
今までも声は大きかったが怒鳴ってはいなかった。
が、ついに堪忍袋の緒がキレた僕はリミッター外れた大声で怒鳴る!
(僕の声は普段でもかなり大きいがリミッター外れた大声はかなりのもんだと思う)
「なんやってかー!そんなら何か!俺がありもせんことでっち上げてわざわざここまでイチャモンつけに来たとでも言うんか!!!!」
「いや、そういうわけじゃないんやけど・・・・」
「そういうわけじゃなかったらどういう意味で言うてるんじゃ!さっきからあるわけねーあるわけねーって!」
「いや、こんなこと信じられんのやけどのぅ・・・いや、あんたが嘘ついてるって言うんじゃないんやざ」
さっきまで鼻で笑ってたジジイが言葉遣いまで変わってきた。
「あのな。信じられんのはこっちやわ。さんざ「これは新車やで新車やで」ってもったいつけられて買うた自転車が一年もせんうちペダル取れるやなんて!ありえんやろ・・・しかも素人でもせんようなミスのせいで」
「ほやの、ほやあんたの言う通りや・・・うらが悪かった。よっしゃわかった直します!ちゃんと直します」
(当たり前じゃ)
大声を聞きつけたのだろう店の奥から父ちゃんが出てきた。
「どうしたの?なんかあったんか?」
「いや、おんちゃんが変なとこにペダルつけたもんやでとれてもたんやほらここんとこ削れてるやろ?んでこのボルト・・・」
「いやいや、こういうことはあるんです」
「はぁ?走っている自転車のペダル落ちたなんて聞いたことねーぞ!」
「いや、ないことじゃないんです機械なんであたりが悪いとそういうこともあるんです」
「いや、買うて一年の自転車のペダル落ちるなんてことあるわけねーやろいや!」
「いや、一年いうても利用頻度や馬力のある人が漕いだらそういうこともありえるんですわ」
そんなことあるかっ!
そんなにあることなら最初ジジイが「そんなもんはずしたらアカンが」などと言うわけがない。
あぁっ!イライラする!
ジジイと話がつきそうだと思ったら今度は父ちゃんか!!!
要するにこの父ちゃん、『うちに責任はございません』と言いたいのだ。
「なら、このボルトはどうや?!」
「いや、このボルト普通に使う自転車用のボルトですが・・・」
この父ちゃんの目にはこの錆っ錆が見えんのだろうか?
第一一年前この自転車は新車として買ったはずだ。
新車として買った自転車の目に見えないとこにはこんな錆錆のボルト使うっていうのは客に対する騙しじゃないのか?!
恥ずかしくないのか?
「ほう、普通にのう・・・でも合わんのつこたらアカンやろ」
「いや、合わんてことないですよ・・・」
「俺が言うたんじゃねぇ!さっき爺さんが自分の口で『合わん』ていうたんじゃ!!!!なぁ、おんちゃん!合わんて言うたげなぁ!?」
隣りにいるジジイに話しかける。
「あぁ、うらが悪い。うらが悪かったんじゃぁ。ちゃんと直すでの」
ジジイが認めてしまったからだろう。
父ちゃんはそれ以上言わず中に引っ込んでいった。
やれやれ・・・ジジイがジジイなら息子も息子じゃ・・・腐ってるな・・・
「とりあえずこの削れたギアは変えたほうがいいの」
(へっ?ギア換えてくれんの?ちゃんと走るようにしてさえくれればいいんやけど)
「おう、いいのあって換えてくれるんなら換えての」
「せやけど水谷(僕の自転車のメーカー名)もう作ってねえであう部品がないんやって」
(ん?部品がない?そんなことあるか?!自転車なんて規格が決まってるからメーカー違っても使えるんじゃねーの?それとも自転車古いから規格や仕様が変わってるのか?)
「色白くてもいいか?」
「はぁ、白?んなもんこの自転車に合わんやろの」
「いや、白いヤツなら今あるで・・それでよかったらちゃんと着けとくで」
「あのの、おんちゃん。悪いけどあんないい加減な仕事する人、俺もう信じられんのやってその白いのってえの見せてくれるか」
「おういいざ、こっちにあるで」
倉庫に向かって歩き出す。
嫌な予感。
これ中古自転車置いてある倉庫じゃねーか。
「これなんやけど」
ジジイが指差したのは古くて錆の浮いたブリジストンの自転車。
見るとその自転車のギアは薄汚れてはいるが確かに白だ。
「はぁ?これ着けるってか!嫌やわ!!!」
「アカンか」
「おんさんさっき水谷はもう自転車作ってねーで部品がねえって言うてなかったか?これブリジストンやげ!」
「いや、これなら合うなぁと思って」
「・・・・」
あぁ、はなから新しい部品なんて頭はないみたいだ。
「気にいらんのやったらいいざ。明日にでも部品屋で見てくるで」
「おう、ならそうしての」
危ない危ない、任せておいたら何されるかわからん。
「なら自転車預からして。ちゃんと直しておくで」
来たときとはうってかわってニコニコ愛想笑いするジジイ。
「おう、本当やざ・・・部品はいってきたら見せてや」
「大丈夫、ちゃんと直しておくで」
あんないい加減な仕事するヤツの大丈夫、信じられるわけねーやろ!
「ゴメンの、悪かったの!ちゃんとしとくで・・」
代車に乗って家に帰る。
数時間後
直ったと電話
(えっ、明日部品見に行くんじゃなかったっけ?それとも僕の怒りを見て慌てて行って来たんだろうか)
怪訝な思いを抱えながら自転車屋に行く。
「直しておいたでの」
ニコニコ笑顔で言うジジイ。
自転車を見る。
確かに僕の自転車のペダルは元のとおりついていた。
が・・・・
換えると言っていたギアまでそのままではないか・・・
いや、僕が換えろと言ったのではない。
ジジイ自らが「変えたほうがすっきりする」と言ったのだ。
ほんの数時間前自分が言った言葉も忘れてしまったのだろうか・・・
「換えておいたでの」
嬉しそうに言ってくるジジイ。
(はぁ?なに言ってるんじゃこのジジイは?なんも変わってねーげ)
一瞬そう思いかけた僕の目にジジイが手に持ったクランクが飛び込んできた。
(えーーっ!換えるつってたのはクランクじゃなくてギアだったろ・・・)
だが・・・
もうわざわざ言うのもアホらしくなってきた。
「もうちゃんとついた思うで・・・そこらへん走ってみるか?」
いくらなんでもそこいら辺はしっただけで取れるわけもないだろう。
「いや、ちょっとその辺はしっただけではわからんで少し様子みるわ」
「おうなんかあったらいつでも言うての!ちゃんと直しますで!悪かったのう」
ニコニコと人懐っこい笑顔を見せるジジイ。
鬼の形相で怒鳴った僕のこと怖い人だと勘違いしちゃったんだな。
はぁ、人ってこんな短時間で変われるものなんだ。
なんか嫌ぁな気持ちで家路につく。
さすがに家に帰ってもその後(昨日乗れなかった分取り戻そうとばかり)数時間乗り回してもなんともなかった。
まだ安心は出来ないがあれほど言ったんだ。
たぶんさすがにジジイも気をつけたに違いない。
が、
ふと頭をよぎることがありクランクを見てみる。
あぁ、やっぱり・・・・
右の(ジジイが「新しく付け替えたでの」と言ったほうの)クランクのブランドが違う。
念のため左も見てみたが左は元からついてたやつ。
やられた・・・・
俺の自転車おクランク左右別のブランドのだよ・・・・
最早アホらしくて文句言いに行く気もうせた。
文句言いにいったところで(はぁ、変えてやったのに何の文句があるんや?)と僕の言いたいこともわかってもらえんやろうから・・・
もっちゃんの自転車、近所やからあそこで買おうと思ってパンフまでもろてきたけど今回の一件でそれは完全になくなったな。
はぁ、それにしても怒りの感情って疲れるし、後でじつに嫌ぁな気持ちになるなぁ
言うておきますが普段の僕はお年寄りをジジイ呼ばわりすることはありません。
あまりにヒドイ自転車屋の親父に頭にきて使った汚い言葉ですのであしからず・・・




