深澤side
「で、なんでいんの?阿部」
「もう1回、康二に会いに行きましょう?」
「…康二は俺に会いたくないと思うよ」
俺がどうかは別として。
「先輩はどうなんですか?」
心読まれた?
「俺は…」
「ふっか!お客さん来てるなら言ってよー!」
佐久間が走りながら飲み物を運んできた。
「佐久間!走ったら転ぶしこぼすよ」
「えへ、ごめんね」
ピンク色の髪をなびかせて、とびっきりの笑顔を見せる佐久間は今日も元気だ。
「悪いのは阿部だよ。職場に来るなんて、なかなか肝が座った後輩だから」
「後輩なのー?」
「そう、高校の」
阿部はペコッと頭を下げた。
「こっちは佐久間大介。仕事仲間です」
「…佐久間です!よろしくね」
右手を差し出した佐久間に従うように、2人は握手を交わした。
「お茶ありがとう佐久間」
「うん、じゃあね」
佐久間が去ってから、再び阿部と目を合わせた。
「それで?」
「俺が康二と目黒を引き合わせたんです」
「え?」
「康二に一目惚れしたっていう目黒に、康二を紹介したのは俺だから」
真剣な表情で俺を見つめている。
「もし康二が今の生活に辛さを感じていて、先輩に想いが残ってるなら、それは…俺のせいだから」
「それは」
「先輩は康二のこと、もういいんですか?」
もういい、なんて思ったことはなかった。
ただ、あの日、彼から告げられた言葉だけが俺の胸に深く突き刺さっているだけだった。
・・・・・
「康二!」
あの日…ボロボロになった康二が俺に助けを求めてくれた日以降、初めて康二に会った日。
「大丈夫か?」
「うん」
顔周りの傷はだいぶ良くなったようで、いつも通りの綺麗な肌に戻っていた。
「先週来なかったから、心配したんだよ?」
先週も、いつも通り川辺で待っていた。
「康二?」
言葉を発さない康二の頭をぽんぽんと撫でた。
「…もうふっかさんには会わない」
「え?」
突然降ってきたその言葉を、すぐに受け止めることはできなかった。
「え、なんで?」
「会わんって決めたから」
「だからなんで?俺が海外に行くから?またいなくなるって思ってる?帰ってくるよ、必ず」
「やめてや」
目を合わせてくれないことが悔しくて、必死で康二の肩を揺らした。
「…また旦那のとこに戻るんだ?殴られたのに結局もとに戻るんだ」
「…1回きりやもん」
「1回でもなんでも、どんな理由があっても、康二のこと殴るようなやつといて幸せになれるの?」
康二に対して、声を荒らげるのは、初めてだった。
「なぁ康二」
康二のブラウンの瞳から涙がこぼれている。
「言わなきゃなにもわかんないよ?」
康二は泣き虫で、寂しがり屋で、太陽みたいによく笑う。喜怒哀楽に包まれた人なのに。
「康二はそんな辛そうな顔ばっかするやつじゃない。昔は、泣いて、笑って、コロコロ表情が変わる…そんな人だった」
そんなありのままの康二が、好きなのに。
「康二をそうさせてんのは旦那なんだろ?離れた方が康二の為だよ」
「…また出会ってくれてありがとう」
「康二!」
俺から離れようとする康二をむりやり抱きしめた。
「…ふ、かさん」
「俺は康二を幸せにできる」
「…離して」
康二の髪の毛が俺の首筋にささって、少し擽ったい。
「ふっかさんは、俺のことなんて忘れて、幸せになって」
「だから、俺は」
「俺は結婚してんねん。ふっかさんと、本当は再会なんてしちゃいけなかった」
「…後悔してんの?」
涙を流しながら懸命に言葉を紡ぐ康二の両手を優しく包み込みながら、その話を聞いた。
「してない。でも、俺は…めめと一生一緒にいるって誓ったから」
「…抱いてって言ったの、康二でしょ?」
嬉しかった。
康二が俺を頼ってくれたことが。
「ごめん」
「謝って欲しいんじゃなくて、俺はただ康二が心配なんだよ」
康二は俺の胸を強く押して、距離を取った。
「ばいばい」
そのまま俺に背を向けて歩き出してしまった康二を追いかけて、手首を掴んだ。
「行くなよ!」
「離して」
「また…お父さんに暴力振るわれてた頃みたいに生きてくのかよ!」
「めめは、父さんとはちゃうよ」
「でも」
「ふっかさん」
急に距離を縮めた康二は、俺の首筋に顔を埋めて、耳元でぼそっと呟いた。
「愛したらあかんのに、愛してごめんなさい」
そう言われてしまったら、再び遠ざかっていく康二を追いかけることはできなかった。
・・・・・
「それがあったから、先輩は康二のこと忘れたんですか?」
「忘れた日なんてないよ」
「でも」
「愛したらあかんのに、愛してごめんなさいっていう言葉の重み、お前に分かる?」
俺も同じはずだ。
結婚している元恋人を、愛してはいけなかった。
「分かりません」
「俺が康二に会いに行ったら、あいつの脳みそはパンクしちゃうよ」
「でも俺、そんなの全部どうでもいいんです」
「え?」
阿部はたまに、ぶっとんだことを平気で言う。
「先輩は、会いたくないんですか?」
その真っ直ぐな目に、嘘をつこうと必死で、でも見透かされているようで、できなかった。
「会いたいよ」
愛してはいけない人。
二度と会わないと約束した人。
それでも、ずっと、あなたに会いたかった。
「それなら、そうと言えばいいのに」
嘘をつけなくて、ごめん。
目黒side
「本日はありがとうございました」
新しい事業の支援を求めてやって来た人のプレゼンを聞いていた。
「こちらこそ、貴重なお時間をいただいて」
「いえいえ、前向きに検討しようと思いますので」
プレゼンに来ていたのは、佐久間大介、スタートアップ企業の社員だった。
「目黒さん、お昼、お時間いただけませんか?」
「え?お仕事のお話でしたら」
「いえ、別のお話なんです」
不信感を抱いていることに気づいたのか、佐久間さんは素敵な笑顔を見せてきた。
「目黒…いや、向井康二さんのことです」
その名前を聞いて、断ることなどできるはずがなかった。
「分かりました」
優雅にコーヒーを飲んでいる佐久間さんを急かそうと、自分のコーヒーを勢いよく飲み干した。
「あの、佐久間さん」
「すみません、早く話せって感じですよね〜」
佐久間さんもカップを置いて、俺に向き直った。
「簡単に話すと〜」
仕事のときの雰囲気とだいぶ変わった。
「うちの社長の深澤辰哉を、俺は守りたいんです」
「…深澤辰哉?」
「そうです。俺は深澤辰哉を信頼してるし大切にしてるし、愛してますから」
本当に愛してるのだろう。
堂々とした表情からそれが伝わってくる。
ただ、問題なのはそこではない。
「深澤は本当に誰にでも優しくて人当たりが良くて、着いていこうと思わせてくれる人です」
「はい」
「そんな彼の優しさにつけ込んでるなら、俺は許しません」
「すみません、深澤辰哉って」
その名前は、最近頻繁に耳にする。
「知ってますか?」
「…いえ」
知らないことにして、話を進めた。
「深澤を傷つけるのが、目黒さんの大切な人だとしても俺は許しません」
「どういう意味ですか?」
「康二さん、深澤と不倫してますよね」
どくんと胸がはじけた。
「なにを根拠に?」
「俺ずっと探してたんです。あの日、深澤と一緒にいた人」
「あの日?」
「4年前、かな?深澤は父親に言われて海外に留学する予定で、その日も俺と準備する予定でした。なのに、深澤は来なくて、心配になって会いに行ったら…」
言葉に詰まった佐久間さんは、少し間を置いてから話し出した。
「知らない人がいました。エントランスで、抱き合ってて、深澤は…深澤はいつでも待ってるって、俺は康二を愛してるからってその人に言ったんです」
胸がズキズキと痛む。
深澤辰哉は、ただの先輩だって、言ったくせに。
「それで思い出したんです。深澤が昔言ってた、好きな人の話」
「…それが康二なんですか?」
「昔の思い出をいいことに、深澤に頼って甘えて…俺は許せません」
きっと佐久間さんの「愛してる」は、俺が康二に想うものと同じだ。
「昔の話でしょう?」
「…それが最近また会いに行ったみたいなのでお話させていただいたんです」
「佐久間さんはこの話を俺にしてどうしたいんですか?」
「二度と深澤に会わないでほしいです」
佐久間さんの真剣な瞳を真っ直ぐ見られなくなる。
「目黒さん、お子さんいらっしゃるってさっき言ってましたよね?」
「はい」
「その子だって、もしかしたら」
ドンっとテーブルを叩いて、佐久間さんの言葉を止めた。
「あの子は俺の子です。それ以上言うなら、取引も考え直しますよ?」
「…すみません」
康二とひなたの顔を思い浮かべて、涙が溢れそうになった。
向井side
「なにしてんの、ラウール」
ラウールはびくっと肩を震わせて、振り向いた。
「…めめ」
「今日来るなんて言ってた?」
ラウールは、わざわざ俺の方に向き直って、口角を下げ、白目をむいた顔を披露してくる。
「俺が呼んだ!」
「え?」
思わずそう言っていた。
「寂しくなって…ラウやったらめめも安心かなって思って」
「康二くん?」
驚いたように俺の目を見てきたラウールに大丈夫だと伝えるように微笑んだ。
「そっか。もっと早く帰れるようにするね、寂しくさせてごめん」
今日のめめの帰りは、いつもよりよっぽど早い。
「うんん、わがまま言ってごめんな」
「いいんだよ」
めめは俺の頭を大きな手のひらで撫でてから、中に入って行った。
「…めめ、変わった?」
「ひなたが産まれてから、少し柔らかくなったんよ」
「へぇー、大学んとき、康二くんと勝手にご飯行って死ぬほどキレられた印象しかないからね、俺」
もちろん、ラウールと2人でご飯に行ったのなんか、随分前の話だ。
「康二ー?」
部屋に行ったはずのめめが俺の名前を呼ぶ声がする。
「はーい!」
「じゃあ、本格的に怒られる前に帰るわ」
「気をつけて帰ってな」
「康二くん」
ラウールはドアノブに手をかけてから、改めて俺を見つめた。
「ん?」
「ごめんね」
「せやから、それは…」
「じゃあまた」
そのまま振り向かずに帰って行ったラウールの背中を思い出しながら、めめのもとに急いだ。
「めぃめぃー?」
「ひなたがこうちゃんをご所望です」
いつもならめめにべったりのひなたが、駄々をこねている。
「あらら、なんでやろ」
そっとひなたを抱き上げて、頬をもちもち押してみた。
「どーしたんひなた」
「こうちゃんどこにもいかないで」
「え?」
驚いてめめの顔を見ると、めめも同じぐらい驚いていた。
「行かんよ?ここにおるやんか」
「こうちゃんいなくなるゆめみた」
「なにそれー!ほら、ここにおるやろ!」
両手でひなたを天井に届きそうなぐらい、高く抱き上げた。
「ふふふっ」
笑顔を取り戻したひなたを見て、安心してソファに降ろした。
「さすが康二」
「せやろー」
少し疲れているようなめめの表情に気づいて、額に手をおいた。
「こうじ?」
「めめ、熱あんで」
「え?」
「早く服着替えて、横になって」
めめの背中を押して、寝室に連れていく。
「ちょ、こうじ」
「ほら、脱いで」
ネクタイをほどいてから、シャツのボタンに手をかけていく。
「こうじ」
せっせと服を脱がせていた俺の腕は、めめによって阻まれた。
「え?早く着替えな…」
「できるよ、ひとりで」
「でも熱あるし」
「ひなたじゃないよ、俺は」
頬を赤らめているから、熱が上がってきたのかと心配になって、掴まれていないほうの手で額に手を当てた。
「なぁ熱くなっとるから」
「こうじのせいだけどね」
「え」
掴まれた手首がそのまま引かれて、めめの熱い手のひらで頬を包まれる。
「めめ」
「すきだよ」
ゆっくり重なった唇は、いつもより熱を帯びていて、俺にまで伝染してしまいそうだった。
「…めめ!」
「おこんなよ」
めめは自分でシャツを脱いで、着替えに手を伸ばした。
「むりだやっぱ」
「え?」
「きがえれない」
「体つらいやろ?俺が…」
そう言ってからめめの顔を見ると、いたずらに笑っていた。
「もう!ほんまは着替えられるやろ!?」
「むり、きせて」
めめに熱があるのは本当で、具合も悪そうに見える。
「…んーもう!」
着替えのシャツの袖をめめの腕に通した。
「ありがと」
「はよ寝えや、熱あが…」
横たわっためめに体ごと引っ張られ、広い胸の中に収められてしまった。
「…めめっ!」
「うつるかな」
「どっちもなったらあかんやろ?」
「でも、そばにいて」
「…なんかあったん?」
「…こうじがいなくなるゆめみた」
「それはひなたやろ」
珍しく弱音を吐くめめを振り払うことはできずに、背中に腕をまわした。
目黒side
「ん…」
どれくらい眠っていたんだろう。
目を覚ますと、腕のなかにはかわいらしい寝顔を見せる康二がいた。
「ふふ、かわい」
頬をつんつんと人差し指で軽く押すと、表情を緩めた。
「康二、起きて」
体はスッキリしていて、すっかり熱は下がったようだ。
「ん、?」
目をこすりながら眠そうな瞳を開いた愛おしい人は、俺を見てハッとした表情を浮かべた。
「うわっ寝てた!めめ、熱は?平気?」
勢いよく額に手のひらが置かれて、そのスピードに思わず笑ってしまう。
「あ、少し下がったかもね」
「康二のおかげ」
「なんもしてへんよ、さては知恵熱やな」
「違うよ」
知恵熱かもしれない。
あのメールが送られてきたとき、頭の中が真っ白になったから。
「いちよう熱さまシート貼ろか?」
「待って、行かないで」
ベッドから立ち上がろうとする康二の腕を引いて、後ろから抱きしめた。
「めめ?」
「うん」
康二の首筋にキスを落として、柔らかい髪の毛を撫でた。
「ん、めめ、」
「うん」
はだけた上着に手をかけて、唇を首筋から肩に移動させていく。
「ん、ねぇって」
そのまま顔を横に向けた康二の唇を塞いだ。
「っめめ、やめや」
赤くてぷるぷる柔らかい唇が、パクパク動いている。
「やだ?」
お腹にまわした腕をぎゅーっときつく締める。
「いてて」
抱きしめたとき、俺の体が康二の香りに包まれる感覚になるのがたまらなく好きだ。
「今日はえらいあまえんぼさんやな」
ノースリーブの下から手をいれて、お腹に触れた。
「ちょっ、めめの手ぇ熱い」
「まじで俺、このまま溶けたい」
「は?」
心の底から困惑した声を出して笑っている。
「何言うてんの」
「康二に触れてると安心する。康二が近ければ近いほど、よく眠れる気がする」
「…ほんまに何言うてんの?」
それでも俺から離れることなく、側にいてくれる。
「康二」
「ん?」
「ひなたは誰の子?」
動きが止まった康二の様子を見て、なんとなく、伝わってしまった。
「俺の子じゃないの?」
お腹にまわしていた俺の腕をどけて、康二は俺に向き直った。
「どうして?」
「俺が聞いてるのは、ひなたが誰の子かだよ」
想像していたより、俺が声を荒らげたり怒ったりすることはなかった。
「めめ」
「うん」
「ひなたは」
声が震えてる。
「ひなたは、めめの子やない」
分かっていた。
そう言われるのは。
「そっか」
「本当にごめんなさい。俺ずっと、めめに嘘ついてた」
「うん」
「時間もお金も、全部かけてもらって」
康二は泣き虫で、よく笑うし、すぐ怒る。
きっと泣くんだと思ってた。
なのに、康二は力強く俺の目を見つめている。
「なにを言ってもなにをしても、償えんことをしたって分かってて、それでも俺は嘘ついた」
「なんで?」
「めめに、ひなたの父親になってほしかったから」
ずるい。
「時間はかかるけど、必ず慰謝料払うから」
「慰謝料?」
ずるい。
「慰謝料払えばええと思ってるんやなくて、ただ、方法のひとつだとは思って…本当にごめんなさい」
ずるい。
「めめ、俺と離こ」
康二がなにも話せないように、唇を塞いだ。
「っめ、」
「俺、離婚しないよ」
「…え」
「俺が康二のこと手放すわけないよね?」
康二をむりやり押し倒して、手首を握った。
「めめ」
「別れてどーすんの?その男のとこいくの?」
「ちゃう」
「じゃあ他の男?」
「ちゃうよ」
「じゃあどこ行くんだよ」
唇を重ねて、逃げ惑う康二の舌を絡めとった。
「んはっ、あ」
「康二、離さないよ」
「ん、め、」
上裸になった康二の白い肌に唇を落としていく。
「うぁ、めめっ」
「ひなたの父親、誰?」
赤く染まっていく康二の肌に優しく触れる。
「ひぁ、あ」
太ももに手を伸ばして、指で優しくなぞった。
「いぁ、あ」
「ねぇ、誰の子?」
「まあって、めめ、ほんまっ」
左足を俺の肩にのせ、康二の両頬をつまんだ。
「いたっ、」
「いれるよ」
「め、」
大きく仰け反った康二を押さえつける。
「いたいっ、めめぇ、ねえいたぃ、」
「誰の子なの?言えないの?」
首を左右に振って、唇を真一文字に締めている。
「なんで?かばってんの?」
腰を振る度に、康二が甘い声をもらす。
「あぁ、めめ、」
「ねえって」
「おれが、たのんだの!」
とろんとした瞳の奥で、誰を見てるの?
「おれが、だいてって」
「…なんで?」
肌と肌がぶつかる音にかき消されそうな声で、大粒の涙を流しながら話しているのでさえ、愛おしいと思ってしまう。
「めぇめと、けんかしたひ…ぃあ、はあっ」
「喧嘩?」
康二の腰を持って、うつ伏せにさせた。
「ぃああ、!」
「早く話して」
こくこくと頷きながら、体を震わせている。
「めめぇ、が、おれなぐったひ、おぼえてる?」
やっぱり、その日だったんだ。
「…うん」
「おれっ、あ、」
康二の両手に俺の両手を重ねて、体をぴったりとくっつけた。
「ひぃ、あ!」
「その日、他の男と寝たのっ?」
首を上下に振って、ごめんなさいと繰り返す間も、腰を動かし続けた。
「ごめ、なさ」
「うん」
「ごめんなさいっ、」
再び、康二の体を仰向けにさせる。
「ん、はぁ、」
「俺はね、康二」
康二の細い首に、両手を添えた。
「康二を離す気、ねえよ」
少し力をいれると、かはっと苦しそうに咳き込むからゆっくり手を離した。
「ごめんなさいっ、はぁ、ぁめめ」
そのまま、俺の名前を呼んでよ。
「ずっと俺のそばにいるって約束したろ」
康二の腕が俺の頬に伸びてきて、その手に包み込まれた。
「っ康二?」
「ごめんなさい」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を見て、いつも泣かせてばっかりな自分が不甲斐なかった。
康二side
「こうちゃん!ぱぱ!」
かわいらしい声が聞こえて、ゆっくり瞳をあけると、めめの腕の中にいた。
「あ、」
頭を鈍器で殴られたみたいに、一気に記憶が押し寄せてくる。
「ひなた…」
めめが眠ると思って、鍵をかけていたはずだ。
ひなたを1人にさせてしまった。
「めめ」
「ん、」
「ひなた、呼んどるから」
「俺が見てくるから」
めめは俺にめめが来ていたシャツを羽織らせてくれた。
「でも」
「あったかくして待ってて」
めめはパーカーを羽織って、部屋から出て行った。
「…はあっ、」
ひとりきりの空間になって初めて、さっきまでの出来事が現実味を帯びてきた。
こんな日が来ると、分かっていて、ずっと俺はめめに嘘をついてきた。
「こうちゃあん!」
開いた扉から、ひなたが元気よく走ってきた。
「ひなた」
ベッドに勢いよく飛び込んできたひなたを力強く抱きしめた。
「ぱぱ!」
ひなたに導かれて、めめもベッドに戻ってきた。
「うふふ」
俺とめめの間で幸せそうに笑うひなたの頭を優しく撫でた。
「ひなた」
「ん!?」
めめの方を見て、わくわくした表情を浮かべている。
「明日さ、おばあちゃんち泊まろっか」
「こうちゃんとぱぱも!?」
「うんん、ひなたひとり!できるかな?」
めめがひなたを見る目は、いつもと変わらない。
「できるよ!!」
「ありがとうひなた!俺とこうちゃん、デートするんだ」
「でーと??」
「2人で遊ぶの」
「たのしみ?」
「たのしみだよ」
めめはそっと俺の手を取った。
「いいでしょ?康二」
「…もちろんやで」
握られる手の強さに、握り返すことはできなかった。
to be continued



