無心航路B 【Preuve de vrai amour】 | Mr.Doredore の Blog

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映画 Scene no.3-23 カチンコ start


彼がやって来るのを待つには、欠伸は必要なかった。


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四五分も経たないうちに電話の主はやって来た。


襟足を短髪に刈り上げ 浅黒く日焼けをした彼が笑うと


白い歯が目立ち精悍な感じがしたが、眼は笑ってはいなかった。


簡単な自己紹介を済ませ


「私の車で行きましょう」 と言わるままに、


彼のハイラックスサーフに同乗する。


タカネは 助手席が嫌いではないようだ。


しかし、そのサーフは 近くの酒場へと向かう・・・。


「新田ちゃん、いらっしゃ~い」


カウンター越しに彼を待ち受けていた女性群の囀りが聞こえる。


新田というその彼は、


「タカネさん、何飲みます?好きなものオーダーして下さい!」


と言いマイクを片手に持ち カラオケを歌いだした。


◎〇□△×・・・ 歌手にデビューするようには見えなかった。


新田は楽しそうにしていた。


タカネの沈黙が始まった。


ハイボールを二三杯空いた頃には


周りの席に常連らしき顔ぶれが肩を並べていた。


「そろそろ行きますか」 と彼が席を立つと、


「新田ちゃんまたねっ」 とカウンター越しにママがウインクをした。


モテ男は いつでも どこでも そこにいる。


当然のように外は暗くなっている。


数分で彼の家へたどり着いた。


タカネの腕時計は、単に左手の飾りなのか


特に観察はしていなかったが、深夜の訪問である。


玄関のドアには 無用心に鍵は掛かっておらず


祖母が同居しているようだった。


階段を上がり 二階の彼の部屋に招かれ ソファーに座り


暇もなく新田は語りだした。


彼の境遇は タカネと類似していた。


不安定な心が感じ取れた。


突然、彼は 古いオーディオにスイッチを入れ


アナログのレコード盤を引っ張り出し 大音響で


聞き覚えのあるアメリカ人の女性シンガーの曲が部屋中に鳴り響いた。


彼はご機嫌のようだった。


同時にタカネは左手を見た。 深夜の十二時を過ぎていた。


「ちょっとボリューム高くないですか!」


そんなタカネの言葉とは裏腹に


彼は壁に立てかけている写真をじっと見つめていた。


新田とツーショットで並んで写っているその若い女性は


幸せそうに見えた。


「彼女は、もうお休みですねっ」


タカネの言葉が 交叉した瞬間、彼の瞳から溢れる涙を確認した。


零れ落ちる頬を拭おうともしていない・・・


〇×△□◎×・・・


「三ヶ月前にアイツ逝っちゃったんだ」


冷静に言葉を選ぶように呟いた。


「次男坊が生まれた時、鬼っ子て言われたんです。」


「お産の後の出血が止まらなくって、あいつ、死にたくないって言っていた。」


「今でもその言葉が聞こえてくるんだ。」


タカネは 話掛けるワードが浮かばなかった。


時に神は、幸せと不幸の素振りを交互に垣間見せることがある。


残念ながら 彼に掛ける言葉は見つからなかった。


漠然とした時間の流れだけが 過ぎてゆく。


埋め尽くせない時の刻みが、彼には必要だったのかも知れない。


そのまま タカネは 帰途に着くことにする。


深夜のドライブは、今のタカネには あまり快適な気分ではなかった。


時折、絡み付くように グレーの靄が何度も車の先を遮った。


その日の午前中に タケシと連絡を取った。


「お前なら彼の気持ちをちゃんと理解して受け止められるだろうと感じた。」


タケシは自分の事を単に買い被っているに過ぎないとタカネは思った。


優しく聞いてあげることはできても、


人の深い心の痛みなど


他人が本当に理解することなど到底あり得ない事なのだから・・・、


でも、タカネは、悲しかった。


 ・・・つづく


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