100年前のレンズ ベス単 | アトリエ・フロール(株)写眞研究課

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写真家・花井雄也がお送りする、写真ブログ。商品写真から赤外線写真・ピンホールカメラなどマニアックな写真まで、多様な作品を掲載しています。
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VEST POCKET KODAK ーヴェストポケットコダックー

 

127フィルムを使用する、およそ110年前の1912年にアメリカKodak社より発売された、小型の蛇腹式カメラです。洋服のベストのポケットにも入る小型カメラというネーミングだそうです。

この機体は、ボディー表面がヒビ塗装されているので、俗に「ヒビ単」と呼ばれているものです。

 

レンズは当時の生産技術は未だ拙いもので、2枚貼り合わせの1群レンズが使われています。

上の正面の写真を見ると一見レンズがないように見えますが、前からレンズフード・絞り・シャッター・レンズという構成になっていて、一番後ろ側にレンスが入っています。

この単玉レンズがかの有名な「ベス単」と呼ばれる、ソフトフォーカスレンズです。

 

これら単玉レンズを外して、さらに絞り効果を兼ねたフードを外すと規定値よりレンズが露出して、F値が明るくなります。そして、絞りがわりのフードがなくなることで、収差が発生しソフトフォーカスのような写りになります。

この「フード外し」、まだフィルム感度がISO10くらいだった大正時代に発明されました。当時は感度が低いのを少しでも絞りを開けて撮影したいという思いからかもしれません。

さらに1970年代には35mm一眼レフに取り付ける手法で再流行し「ベス単フード外し」と呼ばれる独特の改造撮影が行われるようになりました。

ちなみにVPKも中期になるとアナスチグマットのレンズが搭載され、こちらはソフト効果は出ません。

 

使用時にはこのように蛇腹を展開して撮影します。

このスタイルをフォールディングカメラと言います。

 

シャッターは表の文字盤にも書かれている「KODAK BALL BEARING SHUTTER」。

上の写真のベアリングがそれです。

この状態でシャッターを切るとベアリングが吹っ飛ぶので、絶対やらないように。

(私はやってしまって飛んだパーツを探すのに苦労しました。。。)

 

レンズフードを外すとこんな感じで絞りが露出します。

 

この機体の絞りは若干調子が悪く、かなり硬くなっていました。

少し虹彩絞りの羽根自体が歪んでいるような感じです。

いずれにしてもこのまま使うにはちょっと気になるので、分解清掃しました。

 

レンズユニットは文字盤の左右にあるマイナスネジを外し、カメラ背面の赤フィルター付きの回転板を外すとレンズが出てくるので、レンズを止めているリングネジを外せば簡単に取り外せます。

同じ作業を逆に行えば、元に戻せるので、一旦外してみます。

上の写真のレンズ周りの絞り爪がリング状になっていてここが回転する、とても原始的な作りです。

とはいえ110年前にこんな工業製品を作っていたと思うとすごいことです。

 

中を開くとこんな感じになっています。

シャッタースピードが1/25、1/50、B、Tと4パターンしかないので、作りは簡単です。

ちなみにこのシャッタースピードだと、現在のフィルム(127フィルムは廃盤になっているのですが、、)の感度だと晴れている日は絞っても露出オーバーになって厳しいでしょう。

 

無事に絞りを取り外し、恒例のベンジン浴を行います。

固まった油やチリなどを取り除きます。結構チリが出てきてびっくり。

この状態で絞りを無理に動かすと表面に傷が入って、症状悪化は必至です。

さっぱりしたところで再度組み直して、動きをチェック。

羽根自体の歪みがあるようなので、硬さはあまり変わりませんでしたがだいぶ安心できるようになりました。

 

組み直し後は、ミラーレスにつけるための改造を行います。
M42のヘリコイドアダプターに取り付ける計画だったので、M42のボディーキャップに20mmの穴を開け、間に先日ジャンクで買ったレンズフードがぴったりだったので、嵌め込んで後玉をリングで固定して完了。

フランジバックが80mm程度なので、ヘリコイドアダプタだけでは長さが足りず、接写用チューブを間に挟み込みました。

 

かなり変態的な見た目になりましたが、これで完成。笑

 

試写。本当は背景が暗くて被写体が明るいのを狙ったほうがソフト具合が出て良いのですが、とりあえずソフト効果は確認できたので、これでよしとしました。