「ずーっとずっとだいすきだよ(絵・文 ハンス・ウィルヘルム)」という、有名な絵本を、皆様、ご存じでしょうか。

 五年以上前、私が図書館の読み聞かせ(in土浦)で、この絵本を使った時のお話を書こうと思います。

 

この、原題「I'll always love you」という絵本についてですが、

1980年代にアメリカで出版されて以降、世界中で愛され、版を重ねてきた絵本で、日本の国語教科書にも使われており、私の塾のテキストにも載ってます。

 

当時、唯一今も続けているのとは別の読み聞かせの会に、Yuni、掛け持ち所属していたのですが、

そこで、同じくメンバーとなった(てか、私が参加しないかと誘った)ヨーロッパ人の友人○さんと一緒に「これを図書館の読み聞かせに使ってみよう」というお話になり、

私は、この「ずーっとずっとだいすきだよ」を、まずは普通に読み聞かせしました。

 

・・・

以下、あらすじです。

 

…主人公は「ぼく」と、犬のエルフィー。

 

エルフィーは、世界一、素晴らしい犬です。

ぼくの家族は皆、エルフィーを愛していたけど、エルフィーは、ぼくの犬でした。

二人一緒に育ち、夢を見るのも、遊ぶのも一緒。

 

やんちゃでいたずらっ子のエルフィー。

家族から叱られることも、多くありました。

そんないたずらエルフィーであっても、家族中の誰もが、エルフィーを大好きでした。

 

だけど、エルフィーに「大好きだよ」と言ってやるのは「ぼく」だけ。

他の家族は皆、エルフィーには「好き」って言わなくたって、伝わってるはずだと思っていたのです。

 

ところが、エルフィーは次第に太ってゆき、寝ている事が多くなり、弱ってゆきます。

 

心配になり、獣医さんに連れてゆきますが…もう、獣医さんにも、出来る事は何もありませんでした。

「エルフィーは、年を取ったんだよ」と、獣医さんは言いました。

 

やがてエルフィーは、階段も登れなくなりますが、ぼくは、エルフィーは、ぼくの部屋で寝なくてはいけないんだ、と抱きかかえてゆきます。

そして寝る前には必ず「エルフィー、ずーっとだいすきだよ」と言って聞かせます。

 

ある朝、目を覚ますと、エルフィーは死んでいました。

 

家族はエルフィーを庭に埋めてやりながら、皆、泣いたけど、ぼくはいくらか、気持ちが楽でした。

「ずーっと、だいすきだよ」って、伝え続けていたから。

・・・

 

…さて、ここで、この絵本を最後まで聞いてくれた皆さんに、クイズです。

 

まず、第一問。

…エルフィーは、男の子でしょうか、女の子でしょうか?

 

…え?そんなの分かるような場面、あったっけ?

…ママ、パパ、おじいちゃん、解る?

…んー、男の子!…で、合ってる?

と、戸惑いながらも、懸命に考え、答えてくれる子供たち。

 

…難しいよね。判らなくても、当たり前。

ごめんね、この答え、日本語の絵本だと、全く判りません。何処にも書かれていないのですから。

 

でも、原文である英語の絵本には、実は、ちゃんとエルフィーの性別が書いてあるのです。

 But she was my dog.

「でも彼女は、ぼくのいぬだったんだ」→「でもエルフィーは、ぼくの犬だったんだ(日本語版)」

 

Sheは「彼女」という意味。

つまりエルフィーは、女の子のワンちゃん(雌犬)なんですね。

 

…へええ、マジ?!エルフィー、メスだったの?

…オスのワンちゃんだって思い込んでた。そうだったんだ~!びっくりハッ

って声が、子供たちや保護者さんから、上がりました。

 では、続けて、第二問です。
 

英語の小説や絵本には、何かを強調したい場合、他とちょっと変わった、斜めのフォント(斜体)で書かれることがあります。

 

ABCDE abcde←こういうの。

日本にはない表現方法ですね、これ。

 

この絵本の中でも、実は2か所この「斜めのフォント」の単語が使われているんですが、

さあ、どこだと思いますか。

そこが、作者のハンス・ウィルヘルムさんが、一番強く言いたかった部分です。

 

これも日本語の絵本だと、全く判りませんよね。

原書の英語の絵本を見てみますと、まず一か所は、第一問でも引用した文だけど、ここ。

 

But she was my dog.

でも、エルフィーは、ぼくの犬だったんだ。

 

「my」は「ぼくの」。

 

そう、エルフィーが、家族の他の誰の犬でもなく、

「ぼくの」犬だ。…ってことが

「ぼく」にとっては、本っっ当に、重要なことだったんですね。

 

もう一か所は…ここです。

 

But she had to sleep in my room.

 でもエルフィーは、ぼくのへやで ねなくちゃいけないんだ。

 

英語の文に「have to」がつくと、「~しなくちゃならない」という意味になります。

その「have」の過去分詞「had」の部分が、わざわざ斜めのフォントになっている。

 

つまり…「ぼく」は

弱って、もう階段を一人で登れなくなったエルフィーを、二階にある自分の部屋に連れてゆかず、

階下に、一人ぼっちで寝かせておくことだって、出来るんだけど、

 

「でも、エルフィーは、ぼくの部屋で寝なくちゃならない」んだ、

「ずーっとずっと、大好きだよ」と言ってやらずに、一人ぼっちで寝かせるようなことは、一晩たりとも、しちゃいけないんだ。

 

…と、とてもとても、強く決意していたんだ…

ということに、気付かされます。

恐らく、これは…作者ハンス・ウィルヘルムさんご自身の、少年だった頃の姿か、

或いは、ずーっと大好きだった、ワンちゃん(またはそれ以外の動物、もしかしたら人間かも)に対し

「そうしてあげてればよかったのに…」という、悲しみと後悔なのではないかと思います。

 

これも、和訳版の絵本を読んだだけだと、判らない。

翻訳者さんが力不足なわけじゃなく、文化圏による表現の違いだから、これをこのニュアンスのまま訳し、伝えるには、どうしても限界があるんです。

 

私も、和訳版の絵本を読んだだけの時には、全く気付かなかったのに、

英語で書かれた原文の絵本を読んで、初めて作者さんの思いを知りました。

そして、それが解ってみると、
和訳版を読み聞かせをする時の、気持ちの持ちよう(表現)が、
少し、ほんの少しだけ、違ってくる。
 
外国の絵本や小説(アニメや映画でも)が、日本に入ってくる時、

翻訳者さんたちは、日本語しか知らない私達にも、ちゃんと内容が解るように、和訳してくれています。

だから、有難いことに「ハリポタ」でも「ナルニア」でも「はてしない物語」でも「西遊記」でも、私達は日本語で、ほぼ遜色なしに楽しめるわけです。

 

だから「既に充分、立派に和訳されてるものを、わざわざ難しい外国語の原文で読むことに、何の意味があるの?ぼけーDASH!超~めんどくさ!」

って思うかもしれないんだけど、

 

…こう見てみると、どうですか。

原文で読んでみると、その言語で読まない限り、一生気付くことが出来ない

作者さんの思いがあるかもしれないんだな(こんな短い絵本にさえ…)って、思いませんでしたか?

 

では、次に、今度は英語で同じ絵本(I'll always love you「ずーっとずっとだいすきだよ」)を、

○さん(英語の流暢なヨーロッパ人の友人)に読んでもらいますので、今、話した点に注意して、ちょっとだけ聞いてみて下さいね。

 

「…ええーっ!英語なんてまだ習ってないし、聴いたって全然、意味解んない!えーん

…って思うかもしれないんですが、

 

私達が使っている日本語とは、また全く違う「英語」という言語の持つ、美しい響きを、

ちょっとの間だけ、音楽のように味わうつもりで、聴いてみて貰えたら、嬉しいですほんわか📖

 

・・・

…私がたった一回、図書館でやった、この日英絵本読み聞かせ(と、その繋ぎの説明)

割と評判良かった…らしい…んですが、

(子供たちに伝わったどうかは判りませんが、少なくとも、同行した保護者の方々には、外国の物語を原文で読むことの重要性の伝わる、良い内容だった…とのご感想を頂けました)

 

私としては、この絵本の内容自体が、けっこう悲しいことと(私個人的には、胸に来る悲しい内容の絵本は、図書館の読み聞かせでは、極力選ばないようにしています。

そうじゃなくても、現実の深い悩みを抱えてる子も多いし、日本って、国語教科書の内容自体、どんよりジメジメした暗~い話が多いので、読み聞かせにまで、わざわざそんな本を選ばなくてもいいだろうと。

今でこそ、時折、ちょっと考えさせられる内容の絵本も、他とのバランスを考えつつ入れてますが、特にコロナ禍下では、明るい気持ちになれない内容の絵本は、一切入れなかった)「英語での読み聞かせ」が、小さな子供たちに受け入れてもらえるかどうか…で、正直、頭いっぱいいっぱいで、こういう繋ぎを入れて誘導すれば、何とか、子供たちにも「英語版読み聞かせにも」興味を持ってもらえないだろうか…と思って、英語版を読みながら必死で考えた、かなり苦し紛れな説明でも、あったのですが。

 

こういうの(英語の絵本の読み聞かせ導入等)って、披瀝する側はキモチ良くても、一歩間違えば、ただの大人のウザい押し付け、インテリ気取りの自己満にも陥りかねないから、難しいんですよ…ショック汗

 

兎に角、私としては、子供たちにとっては宝物レベルに貴重な「休日」の一時間ほどを割き、わざわざ読み聞かせを聞こうと思って、来てくれた子供たちに「絵本って面白い!びっくりキラキラ楽し~い音符爆笑」という印象を持って、帰って貰いたいのよ…真顔

…子供たちも、この時は、クイズを真剣に考えてくれたり、割と興味を持って聞いてくれたようだったので、ホッとしたのですが…ほんわか汗

 

その読み聞かせの直後に、すぐ、この話題をどこかに書いてしまうと、

…あ、Yuniってあの人!?と身バレしてしまう可能性があるので、

実施から五年以上過ぎた今、こわごわ書かせてもらいました滝汗

 

つか、知人の皆様、万一Yuniの正体に気付いても、触れないで下しゃんせ…ぐすん

全く喜ばないので…本っっ当に、喜ばないので…

 

ワンちゃんについての絵本のお話になりましたが、

本日、2月22日は、猫の日。猫

 

まあ、同じくペットとして身近な動物についてのお話、ということで。