不安感は自己実現に伴う必然的な感覚です。不安感から行動するのは避けたほうが良いといわれるのは、自己実現を放棄してしまうことになるからです。

 

仕事熱心な人の中には、仕事をしていないと不安で仕方がない、焦りが出てきてしまうという人も多いのではないでしょうか。じっとしているのが苦手な人も、一見すると仕事好きですが、不安を紛らわすことに一生懸命なのだと思います。共に、努力というエネルギーが不安感を感じないようにするために使われてしまっている状況だといえます。

 

仕事をしていると安心できる。だから、仕事をする。勉強していると安心できる、だから勉強する。といった心理的なパターンに自分が陥っていないかどうか、振り返ってみることをお勧めします。星占い的にいえば、このパターンを作り上げているのは月という「惑星」です(星占いでは月も惑星として扱います)。

 

月には多くの象意がありますが、今回は保護や母という意味合いに注目します。占星術における惑星は我々の意識を表すもので、月という惑星を主体的に使うことが我々は可能です。また、月がどのように我々の行動に影響を与えているのかを知れば、自分の無意識も知ることができるので、精神的な成長につながると思います。

 

月は0歳~7歳という年齢域を持っています。この時期に月をどれだけ「満足」させるかが重要となります。これは、母親もしくは母親の役割を果たす人がどれほど機能しているかにかかっています。「母親の役割を果たす人」には、祖父母や父親が相当するかもしれませんし、母親の次に心を開くことができた他人、例えば幼稚園や保育所の先生等が含まれます。血縁でない場合もあるのです。更に、「母親の役割を果たす」のは人だけでなく社会も含まれるので、世間がどれだけ子供を受け入れることができるかどうかも、月を「満足」させるためには考慮するべき条件です。

 

月を「満足」させるとは、安心感を得ることです。つまり、自分がどんな状況でも保護されていると感じる経験を積み重ねることです。月は我々のプライベートをつかさどり、家庭と関わります。家庭生活に安心でないと、月は未発達になってしまいます。特に、0歳~7歳の幼少期においてはです。

 

月の発達が不十分だと、自己防衛が上手く行かなかったり、プライベートの生活がうまくいかなかったり、情緒面で不安定になってしまったりしてしまいます。

 

でも、母親、母親に相当する人、そして社会は完璧ではないので、必ず失敗します。みんな、人間だからです。よって、すべての人の月は程度の差こそあれ、未熟です。知らず知らずのうちに子供の想いを無視してしまったり、軽く叱ったりしただけなのに、これが月の発達を阻害してしまうことになってしまうことがあると思います。

 

例えば、幼稚園で飼っている金魚にある子供が餌を間違えて沢山あげてしまった時、先生がいたずらをしたと勘違いし、「誰がやったの。やった人手を挙げなさい」と強い口調でいったとしましょう。この先生がその子にとって、母親の次に心を開いた初めての大人だった場合、大きな痛手になるかもしれません。そして、失敗することを恐れ、間違わないように行動しようと、几帳面で生真面目な性格を前面に出すようになるでしょう。先生から怒られることを恐れ、怒られないことを第一の目標にし、自分の感情を抑えたり自由に行動したい気持ちを抑えるような、いわゆる「良い子」になります。この性質は確かに社会を生きる上では便利ですが、自己実現を抑圧するものなので、結果としては悪い影響をもたらすでしょう。あと、いたずらをしたと誤解されたと思っているので、他人に対し警戒感を抱くようになってしまうかもしれません。

 

なぜ自己実現が難しいのかといえば、「自分がどんな状況でも保護されている」という経験が浅いからです。「どんな状況でも」というのは、「ありのままでも」という意味です。つまり、ありのままの自分でいることで安心感を得ることができなかったので、月は未熟になり、自己実現に困難を感じるのです。

 

ありのままで生きることが自己実現なのですから、多くの人にとっては不安がつきものです。でも、この不安を解消しようとすると、自己実現の旅を途中で諦めたことになります。不安を感じる方向に歩みを進め、不安と共に生きる覚悟を持つことが、自己実現には必要なのです。

 

なぜ不安と向き合うことになるのかといえば、繰り返しになりますが、月が未成熟であるからです。子供のころ、ありのままでいることに安心感を得ることができなかったからです。

 

皆さんの日常を振り返ってみてください。安心感を得るための行動を繰り返していませんか。不安を感じたら、この不安感を感じないように、行動していませんか。こうした行動はありのままの自分から遠く離れる行動です。

 

これは、無意識のエネルギーに翻弄されている証でもあります。安心感を得られなかったことへの苦しみから、怒りや悲しみを、どんなに優れた母(母に相当する人、そして世間)に対しても、子供の頃に抱いていると思われます。この怒りと悲しみは無意識の中に抑えられる代わりに、例えば仕事熱心さとして表現されているのです。努力というエネルギーを安心感を得るために使っている状況は、怒りと悲しみが姿を変えて現れたものであるのです。これが精神を病む原因の一つでしょう。

 

頑張っている時、少し立ち止まってみてください。休日の時、焦っている自分はいませんか。出世することに強迫観念を抱いていませんか。正社員でなくてはならないと、必死になっていませんか。「~するべきである」と、自分を追い詰めていませんか。良い親にならなくてはいけないと、自分を駆り立てていませんか。

 

安心感を得るために努力している時、人は一見すると生き生きしています。自分でも調子が良いと感じることが多いものです。しかし、そのエネルギーはネガティブです。怒っているのです。泣いているのです。ピエロの様に振舞っているだけです。このままでは、いつか心身が崩壊してしまうかもしれません。

 

まず、月を癒しましょう。安心感を得ることができなかった子供の自分を見つけるのです。親に対し「裏切者」と怒っている自分はいませんか。どんなに良い親でも、人間なので、必ず失敗するものです。だから、まず、怒っている自分を認めてあげること。ここから、すべてが始まると思います。これは親を否定することでなく、むしろ親と健全な関係を構築する術です。ありのままの自分を親に受け入れてもらうことになるからです。そうすれば、ありのままの親も受け入れることができるでしょう。本当の意味での、親離れです。親離れとは、親(大人、社会)から好かれるために繕ってきた自分を捨て、親(大人、社会)から受け入れられないと思って封印してきた自分を回復させ、その自分を通し親と対話することだと思います。

 

だから我々は、ありのままが良いのです。駄目な自分だからこそ良いのです。不安を感じるのは、ありのままの自分が意識に上がってきている時だと思います。仕事熱心な人は休日に不安を感じるかもしれません。この人は、実は仕事が嫌いで社会人として生きることが苦手なのかもしれませんね。でも、母や母の役割をする人、そして社会に受け入れてもらうために、自分を偽って勤勉になったのでしょう。この仕事嫌いの自分、社会性の無い自分こそ、本当のあなたです。

 

安心感を得られない状況(すなわち大人からありのままを認めてもらえない状況)に直面すると、子供は大人が喜ぶ行動をします。もしくは大人を困らせる行動をします。大人がありのままの自分を愛してくれないことを感知し、彼らから注目されるように振る舞うからです。保護されたいからです。それが、勤勉さであったり、わがままであったり、乱暴さであったり、優しさであったり、大人びた振る舞いであったり、自立的な行動であったり、従順さであったりするでしょう。これは、大人への依存でもあります。

 

この状況が極まると、自分を傷つける人から離れられなくなってしまう状況が生じるでしょう。自分を苦しめる会社になぜか依存し、そこに「安住」してしまうケースもあるかもしれません。もしかすると日本人の多くは、国に依存しているかもしれません。自分たちを苦しめる政府と手を切れない現状は、まさにそうではないですか。

 

いずれにしても、注目されなかった自分、愛されなかった自分こそ本当の自分です。この自分を受け入れてくれる人に出会う旅が、自己実現の一つだと思います。親との関係の再構築でもあります。本当の意味での自立です。自分を見つめ、ありのままで生きていく勇気と希望を見出すと、結構人生は楽しいかもしれません。そして、社会を変える大きな一歩になると思います。

 

以上の考察は、加藤諦三著『悩まずにはいられない人』(PHP新書)と『「安らぎ」と「焦り」の心理』(大和出版)を読んで思いついたことです。星占い的に先生の考察を解釈し、再構築してみました。あくまでも個人的な見解です。

 

最後までお読みくださりありがとうございました。