今どき、JKですらあまりしなくなったプチ家出を4回繰り返した森野徹42歳であるが、意外にも妻の遥香さんが、毎回何事でもなかったかのように受け入れてくれるので、変に慣れっこなっていたようだ。いつものように、「ただいまー」と玄関を開けると、いきなり温まった保冷剤が飛んできて、べちゃ、って感じでおでこを直撃した。


な、なにするんですか、いきなり・・


カチンコチンに冷えたやつだったら・・と思うと、今さらながら遥香さんの殺意にそれこそ背筋が凍る思いの徹であったが、よくよく考えるとプチ家出から帰ってきて、「おかえり」でもあるまい。遥香さんは台所の洗い物を終えると、無言のままリビングの方へ行ってしまった。


夕食はカレーでいいですか、僕、つくりますから


遥香さんに目を合わせることなく台所で野菜を切り始めた徹。どうかこのまま遥香さんの機嫌がおさまってくれますように、と神様、越前様、麻生様に心の中で祈り続けた。


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神頼みが奏功したかどうかは知らないが、無言ながらも無事、夕食のカレーを囲むことになった森野夫妻。VS嵐とぐるナイのおかげで、なんとか和やかな雰囲気が取り戻せたかのようであった。


こういう場合、気の利いたダメ亭主なら、お肩でも揉みましょうか、とか、背中とか腰は大丈夫ですか、とかいいながら、ボディータッチするうちになんとなく普通の夫婦に戻るのだろうが、なにしろA型合理主義者の森野のことである。肩がこったら家電量販店のマッサージチェアにでも座りやがれ、くらいにしか肩もみの効用を知らない。なので、食事が終わると、ぼんやりTVを見続けることになる。


TVを見続ければ、切れ目切れ目にニュースが流れる。ニュースが流れれば、なんとなく感想を言ってみたくなる。で、感想を言えばまた揉める。このバカ夫婦、何回同じことをやったら気が済むのか知らないが、また同じ過ちを繰り返そうとしている。


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花火見に行った人たち、とんだ災難ね


ニュースは福知山、諏訪の花火大会で起こった災難を報じていた。遥香さんの一言は、ごく当たり前、至極真っ当、ニュースを見ていた人たちの99%くらいはそう思ったはずだ。


森野とて悪人ではないから、心の底ではきっとそう思っていたんだろうが、なにしろ自分勝手なA型である。世間で起こる事象は、すべて自分にとってどうなんだろう、という捉え方しかできない。


あー、行かなくてよかったー。


これである。


プチン


遥香さんのこめかみあたりから音が出たのは確かである。もうそろそろ、こめかみに絆創膏を貼ってもおかしくないお年頃の遥香さんであるが、もし本当に貼っていたら、きっとちりじりに剥がれ飛んだことだろう。


あんた、夏休み中、勝手に遊び歩いて、えっ、こら、たまに帰ってきて、いうセリフがそれかい。えっ、こら、テメエだけ遊び呆けやがって、こっちはレジ打ちと品出しでヒーコラ言ってんのに、花火、行かなくてよかったーだ?えっ、こら、テメエ、カチンコチンの保冷剤、百万個投げてやろうか、えっ、こら!!!


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保冷剤でできたおでこのこぶを保冷剤で冷やしながら、森野は、一体遥香さんは何を怒っているんだろうと考えてみたが、土砂降りで帰れなくなるような花火大会に行かなくてよかったね、のどこが彼女を怒らせてしまったのか、皆目見当がつかなかった。


女、っつーのは、わけわからんぜ


そうブツブツつぶやきながら、TSUTAYAで借りてきた『幸運の壺』をDVDデッキに挿入する森野。ちなみに、『Jam Films2』ほか、麻生久美子作品ばかり全部で10枚借りてきているので、これで日曜日まで一歩も外出しなくていいぞ、とほくそ笑む後ろ姿は、てっぺんハゲがバレバレである。


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DVDに夢中の森野は気づかなかったが、金目の物一切をボストンバッグに詰め込んだ遥香さんが、鼻息荒く伊勢崎の実家に帰るところを、隣の室田さんちの嫁の美里が目撃したらしいが、あまりの形相に声もかけられなかったそうである。


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つづく