鳥取県観光政策課受入環境整備係長の吉川恒弘(よしかわつねひろ)さんは、辟易した顔つきで会議室から出てきた。昔、監督がアホやから野球できへん、と言い放ったどアホがいたが、その気持ちが少しだけわかる気がした・・・


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最初に断っておくが、吉川さんは「よしかわ」さんであって、「きっかわ」さんではない。名刺を渡すと、「きっかわさんですか」と言われることが多いが、天地神明に誓って「よしかわ」である。いっそのことひらがなで名刺をつくろうかと思うほどだが、上司の許可が下りずに断念している。


その吉川さんが、会議の結果担当することになったのが、「2014年NHK大河ドラマを契機とした鳥取城への大々的観光客誘致大作戦」作戦本部長である。地方都市にとってはNHKは腐っても鯛である。大河ドラマと朝の連ドラに関係があれば、こぞって観光誘致に躍起になるのは当然といえば当然である。


とかく木っ端役人だの、税金泥棒だの、評判の悪い公務員であるが、吉川さんの知る限り、公務員の多くは真面目に働いている。確かに小市民的でケチ臭いし、地味で頭は固く、発想は貧困、シャレはダジャレかオヤジギャグと相場が決まってはいるものの、そう悪い人物はいない。


が・・・いくらなんでも今回の件はおかしいだろ、と思う。


「きっかわクン、きみねえ、来年のNHKの大河ドラマは黒田官兵衛らしいねえ。知ってる?黒田官兵衛といえば、ほら、鳥取城餓え殺しでしょ。きみも知ってるでしょ、有名だもんね。きみも広い意味では関係者だしねえ。そこでね、来年はこれでね、お客さん、呼んでよ。いつまでも鳥取砂丘とゲゲゲの女房だけじゃだめっしょ。でね、きみね、担当、頼むね、よろしく。」


会議もクソもない。県知事のただの思い付きを、もっともらしいプロジェクトに仕立て上げただけの話だ。


はぁ????である。これこそまさに、じぇじぇじぇ???である。久慈市がうらやましい限りである。


「・・一応、よしかわです・・。あのー、ぼろくその負け戦の当地で敵の軍師を祭り上げるんでしょうか?市民は納得しますか?」


反論はしてみた。意味ないとは思いつつ、一応、言ってみた。だっていくらなんでもおかしいだろ。兵庫や福岡、大分あたりが黒田官兵衛で盛り上がるのは当然だとしても、ここ鳥取が?である。薩長話で会津が盛り上がるような話である。ぼろくそやられました、ポリポリ、って自虐ギャグかますようなもんである。ええんかい、これで、って話である。


が、知事は全く気にしていない。


「?ダメ??関係ないっしょ。今や会津ですらヒーローの時代だからね。勝てば官軍じゃないのよ、今は。負けがヒーローなのよ、わかる?きみぃ、きっかわくん。」


さすが知事である。詭弁を弄するのは朝飯前である。このくらいの切り替えしができないで、知事が務まるはずがない。が、吉川さんも負けてはいない。


「・・一応、よしかわです。・・でも、会津の話は、会津の中で生まれたヒロインの話ですよね。今回は違いますよね、相手の軍師の話ですよね。してやられた話ですよね。それ以外の何者でもないですよね。それで観光誘致ですか?」


一応食い下がる。


「?あれ??きっかわくん、転職希望の人?そうならそうでいいけどね。」


最近、何かといえば民間の活力を持ち出す県知事が多いが、こいつもその流行言葉が好きなようだ。自分に従わないやつは公務員根性丸出しの使えないやつ、そんなやつは民間人と入れ替えてしまえ、が知事の口癖だ。


「・・一応、よしかわです。いえ・・・全力は尽くしますが・・・」


所詮、公務員である。長いものには巻かれるのは習性である。


「ではそういうことで。がんばってね、きっかわくん」


・・・よしかわ、っつーに・・・


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会議から1ヵ月後、銘菓『餓え殺し』『敗北サブレ』ほか、『豪華断食ツアー』や『激ヤセ体験城めぐり』などの便乗ラインナップが完成した。気の早い県庁では、「NHK大河ドラマ黒田官兵衛ゆかりの地、餓え殺し鳥取城」ののぼり旗が100本ほどはためいている。


すっかり自暴自棄になった?いや、仕事に専念し始めた吉川さんの名刺の裏には、こんなメッセージが刷り込まれていた。


「黒田官兵衛の策略で飢え死にさせられた、ここが有名な鳥取城です。目先の小銭に目がくらんで、兵糧米を売ってしまって、あっけなく敗れ去った、ここが鳥取城です。ちなみに、私は吉川恒弘といいます。広い意味で当時の城主、吉川経家の関係者といえば関係者です」


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来年はぜひ、みんなそろって鳥取城へ出かけよう。


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つづく